考えを巡らせている内、アパートの敷地内にいつの間にか入っていた。
「へぇーここがリョウ君の家かー。なんだか雰囲気ある所だね!」
 目の前には築三十年程の修繕工事がろくに施されていないボロアパート。
 サイディングの外壁は所々クラックが入り、基礎は表面が割れ一部鉄筋が剥き出しになっていた。
 手摺やドアノブといった金属の部分は当然のように錆びれている。
 彼女の言う雰囲気とは幽霊屋敷みたいだねということだろう。
「リョウ君!早く入ろうよ!どんな部屋に住んでいるのかなー。楽しみ!」
 それから片付け騒動に突入するまで五分もかからなかった。

「はぁ・・・」
 久しぶりに見た畳の目に僕は背中から倒れ込む。
 仰向けになって見た天井クロスはヤニが付着し黄ばんでいた。
 一通りの片づけを終えた部屋は引っ越してきた直後と見違える位綺麗になっていた。
 元々荷物自体は多く置いていなかったから、散乱したゴミを取り除けば深い霧が晴れたように開けた空間になった。
「もう。はぁ、はこっちのセリフよ」
 ゴミ袋を捨て終えてきたユリナが隣に寝転ぶ。
 彼女は横向きになり僕の顔を見つめる形になり、その視線を感じながら僕は天井に吊るされた照明をじっと眺める。
「ゴミ袋はアパートの裏に置いてきたよ。ポイ捨てみたいで申し訳なかったけど、全部君のせいなんだから」
 表情こそ見えないけど、視線が痛いものに変わったのは感じ取れた。
 なんて返したらいいのか、乾いた笑いしか出てこなかった。
「どうすればあんなに部屋を汚せるのかな?・・・ねぇ?聞いてるの!?」
 その瞬間腹部に鈍い衝撃を覚える。
 彼女が僕の上に跨り視界を覆うように急接近で見つめてきた。
「・・・ごめんって」
「全く、こんなにだらしない人初めて見たよ。もう・・・疲れた」
 彼女はそのまま僕の方へ倒れ込み、体全体が密着する形になる。
 互いに運動を終えた後の様な状態だ、熱い体温が触れ合い溶けそうになる感覚を覚える。
 程よい重さを感じながら僕は身動きが取れなくなる。
 妙になれなれしいな、最近の小学生はこんなにベタベタしてくるものなのか?
 外見の年齢は近いとはいえ、男女だぞ?
 つい数時間前にあった男に抱き着くなんて、そのフットワークの軽さに彼女の将来が不安になった。