「うぅ・・・」
締め付けるような頭部の痛みを覚えながら僕は目覚めた。
目を徐々に開くとシーリングライトの光が視界を刺し、数回瞬きして光を目に馴染ませていく。
二日酔いなのか、どうも気分がすぐれない。
片手で頭を抱えながらソファからゆっくりと起き上がっていく。
眼下のローテーブルには空の缶ビールがボウリングのピンの様に規則的に並べられ、灰皿には吸い殻の山が積まれ今にも崩れ落ちそうな有様だった。
アルコールとタールの入り混じったような悪臭。
毎日この部屋で過ごしているのに、この匂いだけは一向に慣れない。
ベランダに出て喫煙すれば防げることなのだろうが、一本吸う為にわざわざ立ち上がる労力の方がめんどくさいと思った。
だから自然と、寝起きの一本を吸おうとテーブルに置かれた煙草の箱とライターに手を伸ばす。
箱を開けると中身は空っぽで、買い溜めしていた煙草類も全て無くなっていた。
毎日どれくらい吸っているのかわざわざ数えたこともないが、恐らく二箱位立て続けに吸っているのだろう。
舌打ちし、箱を握り潰して壁に投げつける。
無抵抗な箱はコトッと音を立ててフロアに落ちた。
めんどうだが、補充しに行かなくてはいけない。
壁に掛けられた電波時計は深夜の二時十六分を指しており、外の人通りは少ない時間帯だろう。昼夜逆転の生活が功を奏した。
しかし掃き出し窓から外を覗くと大粒の雨が一帯に音を立てて降り注いでいた。
この様子だと、今夜降りやむことはまずないだろう。
その光景を見て深いため息をつく。
本当に、めんどくさい。
コンビニは五百メートル程先にありあまり近いとは言えない距離だが、車を持っていない僕はこの雨の中を歩いていくしかなかった。
上下黒のウィンドブレイカーの上にモッズコートを羽織り、玄関へと向かう。
そこで問題が発生する。玄関先には傘の一本も見当たらなかったのだ。
引きこもりの僕が外に出かけることなんて滅多にないし、傘を買い置いておく発想にまず至らなかったのだろう。
仕方ない、このまま行くかと玄関ドアを開く。
今は三月中旬で段々と温かくはなってきたものの夜はまだ寒い。
暖房で温められた部屋から冷えた外部に身を晒すだけでも苦痛なのに、そこから雨に打たれながら歩き続けなくてはいけない。
風邪を引くことは免れないだろうし、たかが煙草の為に何をやっているんだろうなと馬鹿らしく思えてしまう。
でも、煙草とお酒を摂取する以外にすることがないのだからどうしようもない。