「じゃあ、ずっと君はここで一人だったの?」
「そうだよ。でも、今日あなたが来てくれたから。嬉しいなぁ」
 えへへと照れたように笑い、可愛らしい笑窪が頬に浮かび上がる。
 この陽気な少女はずっとこの独りぼっちの世界で過ごしてきたのだろうか。
 僕の様な暗がりを好むような人間にとっては安息の地になっても、彼女の様な天真爛漫なタイプには苦痛極まりなかっただろう。
 ようやく話し相手が来てくれた、そう思われているのかもしれない。
「これから迷子同士!仲良くしよっ」と少女は僕の背中に両手を回し抱き着いてきた。
 嬉しそうに何回も何回もその場で飛び跳ねている。
 予想外の行動をされた僕の体は少女の勢いに押されてたじろいでしまう。
 汗なのか香水なのか分からない、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
 緊張のあまり力が抜け、両手に持っていた袋と籠をその場に落としてしまう。
 籠はひっくり返り中に入っていた缶ビールと煙草類がその場にまき散らされ、一本の缶が転がり彼女の足に当たる。
「あれ?」と彼女は足元に落ちた缶を拾い上げる。
 数秒地面にしゃがんだまま動かなくなり、「えっ」と絶句したような声を漏らす。
 あーあ、やっちゃったと僕は気まずさのあまり彼女を視界から外す。
 掴まれたビールがどう処理されるのか、ひょっとしたらこの少女はビールの存在を知らなくてこの飲み物はなんだろうと好奇な目線を向けているだけなのかもしれない。
 少女は立ち上がり、掴んだビールを思いっきり背後の草むらに向けて投げつけた。地面に叩きつけられた缶は小さなバウンドを繰り返し遠くの方へ転がっていく。
「どういうこと!君私と一緒位の年だよね!?ビールは大人にならないと飲んだらいけないんだよ!」
 切迫した様子で距離を詰めてくる。
 いかにも優等生の言いそうなセリフを彼女は吠えていた。
「煙草まであるじゃない!これも、これも、これもダメェ!」と手に掴んだ快楽品を次々と草むらに投球していく。
 綺麗なフォームだなとどうでもいいことに感心してしまう。
 さすがに全部を処理できないと思ったのか、少女はむっとした顔でこちらを睨んでくる。
 地面に転がった煙草類を籠に戻したくなったし、なんてことするんだ!ようやくありつけた少ない楽しみを!と抗議したくなったがもちろんできるはずもない。
 それこそ少女の怒りの炎に油を注ぐような行為だ。
「お酒も煙草もダメ!それに煙草なんて、百害あって一利なしって学校で習ったでしょ!今すぐにやめなさい!」
 こちらに再び詰め寄り、威圧的な言い方で注意してくる。
 あれこれ歪んだものに正しさを突き付けてくる、典型的な学級委員タイプ。法と倫理の後ろ盾をここぞとばかりに主張してくる。この状況で僕が悪いことは明白なんだけど。
 ただ単にいけ好かないだけだ。