この時点で逃げるべきだったのかもしれない。
 今僕の両手には服屋とコンビニで盗んできた商品が袋と籠に詰められており、一部はお酒と煙草といった未成年が持っていれば一発でアウトなものも含まれている。
 これらを見た彼女がどういう反応を示すのか、真面目な子だと通報される可能性もあり得る。
 最近は小学生でも携帯電話を所持しているのだから、彼女も例外ではない。
 しかしどうだろう。
 こちらへ走ってくる少女以外、僕はここまで誰一人としてすれ違うこともなかったのだ。
 そんなことがあり得るのか?
 何億人と言う人口が地球上に張り巡らされているとしてここまでこの地域は人がいなかっただろうか?
 田舎の類には入ると思うが、誰も住み着かない程過疎化は深刻ではないはずだが。
 僕が考えを巡らせている間少女はいつの間にか目の前まで接近して立ち止まり、真っ直ぐにこちらを見据えていた。
 可愛らしい子だった。
 長い睫の下にはパッチリと開かれた大きな瞳が覗き、ピンク色の唇からは荒々しい息を何回も吐き出していた。全力疾走が堪えたのだろう。
 髪は寝癖のように何本か飛んでいたが、それが少女の活発なイメージをさらに根強いものにさせていた。
「君!どこから来たの!?」
 はぁはぁと息切れを起こしながら彼女は言う。
 どれだけ必死に走ってきたのか。
 細い体躯を見た所運動神経は良さそうだが。
 どこから来たの、という問いに何と答えていいか分からなかった。
 違う世界から来た、何て妄言伝えるわけにもいかないし少女を見てからはここが夢の中なのか現実なのかも分からなくなっていた。
 むしろこっちがここはどこなのかを教えてほしい位だった。
「・・・買い出しの、帰りだよ」
 言い淀みながら僕は答える。
 荷物を持っている辺り違和感はないだろうし、実際僕は生活品を調達しに行っていた。
 結果的には置いてあったものを取っていった、という形になってしまったが。
「そう、じゃなくて!」
 少女はさらに僕との距離を詰めてくる。
 視界のほとんどが彼女の顔で埋め尽くされ、荒い息が首元をかすめた。
「どうやって!ここに来たの!?」
 彼女の言葉に僕は目を見開いた。
 その言葉はまるで僕の置かれた状況を知っているかのように捉えられたからだ。