地面にしゃがんで、胸ポケットから線香入れを取り出して中の一本を手に取り火を点ける。
 振るって火を消すと白い煙が宙を漂って、慎重な手つきで線香を立てる。
 両手を合わせ、目を閉じると彼女の笑顔が呼び起こされた。
 子供の様に無邪気にはしゃいで、僕に抱き着いてくる彼女。
 その温もりや感触を今でも鮮明に覚えている。
 今ここに君がいてくれたなら、どんなに幸せだったんだろう。
「・・・それじゃ、行くね」
 僕は立ちあがり、バケツとひしゃくを持って立ち去ろうとする。
 一歩足を踏み出した瞬間、僕はすぐ歩を止めて振り返る。
「違うな。また、いつか。夢の中で」
 風が、再び吹く。
 ほんのりと温かみを帯びた風が、肌を優しく撫でる様に過ぎ去っていく。
 うん!と答える彼女の声が、どこからか聞こえてきたような気がした。
 僕は空を仰いで小さく笑う。
「ユリナ、今でも僕は、君の事を愛しているよ」
 そう告げて、僕は再び歩き始めた。

〈私も、愛してる〉
 また、彼女の声が聞こえた。