「私、神様に願ったことがあるんだ。夢の中でもいいから、リョウと会わせてって」
 夢の中の病室で見た、彼女の日記を思い出す。
 その願いがきっかけで、例の夢は引き起こされた。
「あと、この足が動くなら今すぐあなたの元へ走っていきたいみたいな、そんなことも願ったかな」
 両手で顔を覆って恥ずかしそうに身を捩っている。
 ということは、あれは現実ではなく既に夢の中だったのだろうか?
「びっくりしたなー。気づけば土砂降りの中傘も差さずに路地に立っていて、目の前には髪や髭を異常に伸ばしたリョウがいるんだもん。
 両足を自由に動かすことができたから、そのままリョウの元まで突っ込んでいった。
 自分がリョウを振ったくせに、そんなことも忘れて胸の中で甘えていた・・・ごめんね」
「いいんだ。僕も、あの時は嬉しかったから」
 そう言って微笑むと、彼女もクスリと笑ってくれた。
「あと、ユリナ。あの時最後何かを口にしていたよね?あの後すぐに意識を失ったから、聞き取れなくて」
「うん・・・あれはね」
 彼女は横髪を片耳に掛け、目を細めて言う。

「会いたかった。そう言ったんだよ」

 窓から生温かい風が、桜の花びらを乗せて吹き込んでくる。
 桜の花はしばらく宙をゆっくりと漂い、リノリウムの床にポトリと落ちる。
 彼女がいなくなってしまうことさえ、全て夢だったらいいのに。
 心地よさそうに笑う彼女を見て、そう思わずにはいられなかった。