それから僕は毎日の様に彼女の病室に通った。
 引戸を三回ノックすると「はーい!」という元気な返事が聞こえる。
 中に入れば彼女は笑顔で迎え入れてくれて、壁に掛けられたパイプ椅子を設置して彼女の隣に座る。
 持ってきた文庫本や雑誌、DVDの入った袋を渡せば大袈裟なリアクションを取って喜んでくれた。
 暇つぶしの道具として、自室にあったゲーム機を持ってきたこともある。
 夢の中で遊んだ、例のレースゲームだ。
 僕が一人暮らしを始めたての頃、夜二人でやっていたことを思い出す。あの時も、僕は容赦なく彼女をボコボコにしていたな。
 病室にあるテレビに接続して二人で遊ぶ。「手加減してよね?」と彼女は言うが当然できるはずもなく僕は連勝し続けた。
 その度に彼女は「もうっ!」と僕の肩を楽し気にバシバシと叩いてきた。
 面会時間ギリギリまで、他愛もない話をしたり、一緒にテレビやDVDを見たり、車椅子に彼女を乗せて外を散歩したりした。
 夜になれば、僕は短い時間ながらアルバイトに出かける。
 正直気は乗らないが、また彼女に“あなたが今ボロボロになっているのは私のせいなんだよね?”と思わせないように、社会復帰への第一歩を踏み出すことにしたのだ。
 実を言えば、あの言葉は結構応えるものがあった・・・。
 彼女と会話をしている途中、僕はふと気になっていたことを思い出し聞いてみる。
「そういえば、僕があの夢を見た前夜、ユリナと出会ったんだよ」
 そう言うと、彼女は驚いた様に目を見開いた。
「えっ・・・リョウも?」
 反応から察するに、あの日彼女も僕と出会っていたらしい。
 しかしそうなるとおかしい話になる。
 彼女の足は、もう使えない。歩くどころか立ち上がることさえままならないのだ。
 雨の路地で再会した彼女は、確かに地に足を着け僕の方へ向かって抱き着いてきたはずだ。