〈この世界ってなんなのかな?私達、巨大な牢獄に閉じ込められちゃったのかな?〉
 そう言った彼女の不安気な表情が思い出される。
 そんな彼女を励ますために、我ながら似合わない言葉を掛けてしまった。
 でもその一言を聞いただけで、彼女は纏わりついた影を吹き飛ばしいつもの元気溌剌な少女へと戻っていった。
「私には、リョウしかいないから」
 彼女は囁くように言う。
 一瞬夢の出来事と重なってその言葉が記憶から来たものなのか、目の前の彼女から発された言葉なのか分からなかった。
 今なら、その言葉の意味が分かる。
 もっともあの時は言葉通り本当に僕しかいなかったけれど、夢を見る前と後では捉える意味合いがかなり変わってくる。
 僕は彼女の上から退き、ベンチから降りる。
 彼女に手を差し出し、ゆっくりと身を起こして彼女はベンチに座る格好に戻った。
 握った手は離さない、彼女は緊張した様子で繋がれた手を見つめている。
「ユリナ」
 そう呼びかけると、彼女は静かに顔を上げて僕を見る。
 笑いを堪えているような、微笑みを隠しきれていない表情で次の言葉を待っていた。
 そういう無邪気な子供っぽいところは、少女の時から変わらない。