「本当の事を言えば、病気の事は教えて欲しかったし、相談してほしかった。もっと僕を信じてほしかった。
 僕は君の事が他のどんなものよりも一番大切だから、君の代わりになる幸せをこれから見つけるなんてそんな・・・」
 彼女と別れたあの日から、脳裏にはいつだって彼女の華やかな笑顔が映っていた。
 僕にとっての幸せなんて、それくらいだったから。
 どうしてあんなに彼女の傍に居て、異変の一つにも気づくことができなかったのだろう。
 どうして彼女は、本当の事を僕に打ち明けてくれなかったのだろう。
 僕には君しかいない、そう正直に伝えることができたなら、何かが変わっていたのだろうか?
 目頭が熱くなり今にも泣き崩れそうになる。
 気づけば彼女の肩を両手で掴み、ベンチの上で押し倒していた。
「そんな割り切った生き方・・・できるわけがないだろ!だって好きだから!愛しているから!最後の瞬間まで君と生きたいと思うのは当然だろ!」
 彼女の胸に額をつけてそう叫ぶ。
 僕自身でも聞いたことのない雄叫びにも似た声が室内に反響する。
 彼女の服は濡れていた、それが僕の涙によって生まれたものだと後から気づいたが、構わず僕は泣き続ける。
「なんで死ぬんだよ・・・僕を置いていかないでくれよ!どうせいなくなるって分かってたら、こんなに好きになんてならなかったのに・・・」
 嘘だ。どうせ好きになっていた。
 君と出会えなかった人生なんて、一体何の価値があるというのだ。
 僕の人生は空っぽだった。
 虚しい日々の詰め合わせに過ぎなかった。
 でも君が隣に居てくれただけで、世界の景色は見違えるほど色鮮やかで華やかなものになった。
 僕の人生は、君がいることで初めて輝きを放ち始めたんだ。
 君こそが、僕の人生なんだ。
「ごめんね」
 彼女は涙声になりながら、僕の頭を優しく撫でてくれる。