「病気の事何も言わないで、リョウを突き放すように振ってしまって、あなたが今ボロボロになっているのも、全部私のせいなんだよね」
 僕は彼女の目に映る自分の格好や有様を客観的に想像する。
 何か月も洗濯されていないシワや汚れの付着した服装、一切の手入れが施されていないぼさぼさに伸びた髪や無精髭、デキモノが至る所にできた油まみれの肌。
 放浪者一歩手前の風貌だ。
 それくらいダメ人間の具合が仕上がっていた。
「私、あなたに酷いことを言って目の前から逃げた。本当は違うのに、愛していたのに、あなたに余計な心配させたくなくて、他の誰かと幸せになってくれたらって思って、だから・・・」
「ユリナ」
 自分を責め続ける彼女を呼び掛けると、彼女は口を噤んで僕を見る。
 僕は小さく笑い、彼女の手の平を優しく握り返す。
「君以外の誰かと、僕は幸せになれないよ」
 その時一筋の光が展望台を照らした。
 ビルの隙間から、わずかに残った夕日の光が最後の力を振り絞ってこちらを照らしてくれている。
 見えづらかった彼女の表情がはっきりと映し出される。
 彼女は今、泣いていた。