「懐かしいね。もう昔の事みたい」
 ユリナは展望台を見渡しながら言う。
 初めて彼女と出会った時は十七歳の時だったから、あれからもう五年は経ったのか。
「ほんと早いよな。あっという間だ」
「うん、あっという間」
 相変わらず人のいない地元のスポット、潰れず形を留めていることが奇跡のように思えた。
 僕は彼女に肩を貸し、いつか並んで座っていたベンチに彼女を座らせる。隣に腰掛けて窓を見ると、あの時と変わらない景色が目の前に広がっていた。
 まるで五年前に時間が巻き戻ったような、青春時代の爪痕がここには残っていた。
「こうしていると、リョウに告白された日の事を思いだすなー。あの時のリョウ、座ってから視線は合わせてくれないし、周りをキョロキョロして挙動が安定していなかったし、もしかして私告白されるのかなってドキドキして待ってた。今思えば、お互い初々しくて可愛かったね」
 彼女は懐かしそうに目を細めて笑う。
 あの時は気づかなかったけれど、五年前はもっと純粋で真っ直ぐな奴だったと最近になってひしひしと感じる。
 例の告白も、時々夜に思い出して悶絶しそうになる位清純で痛々しい。
 ちゃんと青春していたんだなって、過ぎた後に思う。
 太陽がビルの後ろに隠れ見えなくなり、世界から光が徐々に失われていく。
 薄暗くて静寂に満たされた、二人しかいない展望台のベンチで自然と身を寄せ合い最後の光を見届けようとしていた。
 彼女の手の平が、僕の手に乗せられた。
 細くて、冷たくて、わずかな力でキュッと握られる。
「ごめんなさい」
 僕の目を真っ直ぐに見て、彼女は不安気な様子で言う。
 何について謝られているのか、おおよその検討はついていた。