世界から人が消え、自分一人がこの場に取り残されてしまったような、そんな感覚を覚えた。
 先ずは驚きが訪れ、少しすると心の底から込み上げてくる高揚感を覚えた。
 いつかの映画でこんな世界に行ってみたいという願望が今目の前で実現したような気がしたのだ。
 小さな夢が叶った、そんな子供じみた考えはそんなわけがないだろうという言葉一つですぐに冷めた。
 きっとたまたま人が歩道を歩いていなくて、車も走っていなくて、モノレールも走る時間帯とずれていただけだ。
 様々な偶然が重なった結果このような状況が生まれたのだ。
 本当にこの世界から人が消えればどれだけ平穏だろうと正直思うが、そんな都合のいい状況が起きるはずもない。
 世界は僕なんかの願望を叶えてくれるほど生易しい場所じゃない。
「でも、ラッキーだな」
 幸い懸念していた人目を避けて県道を超えることができそうだ。
 歩道の縁石に立ち左右を見渡し、今がチャンスだと僕はズボンを両手で抱えながらダッシュで車道を横断した。