「っ…」
「コンタクト落としたの?」
それは雨のように降ってきた。
顔を上げる前にさっ、と前髪を避けた黒髪で長身の男性が、私の向かいにしゃがんでぐっと思いっきり目を凝らす。
「まかせて、俺視力2.0だから」
けどちょっと遠視入ってて近すぎると見えなくなるんだよな、これぞ灯台下暗し。とかわけのわからないことを言って立ち上がり腕を組んで一見、偉そうな姿勢で三つ葉の山を見る彼は相当変だと思う。
大体無いものを見つけるなんて不可能だ、ときゅっと両手を握りしめると上から「あっ!」と声が降ってくる。
そして屈むとちょい、とそれを指差した。
「四葉のクローバーみーっけ」
さっき私が見つけたのとは違ういびつで、少ししなびれている不格好なクローバー。こんなの見つけてもとても渡せやしないな、と思ったのに、彼は愛おしそうにそれを見る。
「知ってる? 四葉のクローバーの意味。希望、誠実、愛情。…あと一個なんだっけ」
「…幸福」
「ああそれだ」
「…摘まないんですか?」
「えー? うん。だって四葉のクローバーって見つけることがラッキーで、それに三つ葉でも十分幸せが詰まってるって思うから。俺はいま幸せなので、違う誰かに届けばいいかなぁ」
…変なひと。
「おいブン! 何やってんだ次の授業はじまんぞ」
「あーい。ごめん、もう行かなくちゃ」
絶対に見つからないものを探していたこの時間に、見つけられたものがある。
それでも、「きみも見つかるといいね」って優しく呟いて背を向けた彼には、全部お見通しだったのかもしれなくて。
「あのっ」
「?」
「——————…ありがとう」
私の言葉に振り向くと、そのひとは光の中。
やわらかく微笑んだ。