「あ、あー…あー…聞こえる?」
《ブン、顔ちけぇよそんな近くで話さなくても聞こえるわ」
ごとりとスマホを勉強机の真ん中に置き、座椅子に腰掛け距離を取る。ポジションを定めるためにそこから少し離れてみたら、俺以外の枠4人から一気に「いや遠い」と総ツッコミを受けた。
あれから。逸人先輩と藍沢さんの事件があってから、五日間が経過した。
結局、茜ねぇの通報によって駆け付けた警察の手で俺たち4人含め濱高生、サッカー部の先輩たちは補導され、飲酒や暴行に該当する生徒は無期限の自宅謹慎処分、そして俺たちは一週間の停学処分が言い渡された。
本件を機に向坂先輩に関しては以前から濱高で問題になっていた生徒との交流が公に出たこと、件のチームメイト暴行の罪、また今回の騒動の首謀者であるとしてサッカー部の強制退部と学校の退学を命じられ、交遊会に参加していた一年の藍沢さんの処遇は彼の命令に逆らえなかった被害者として、宙に浮く形となった。
停学が解けたら、藍沢さんにも会いに行こう。それが彼女のために俺が出来る、一つの行動だと思うから。
《ま、でもよかったよねっ。こうして全員無傷で生きて帰ってこれたんだし》
《おれはてっきりあの時茜ねぇのスーパー無双タイムが始まるんだと思った》
《しようか? 画面越えて》
《大丈夫です》
「これで良かったんだよな」
思わず口をついて出た言葉に、グループTALK越しのみんなが俺に集中する。
サッカー部の先輩数人だって、向坂先輩を本当に慕っていた人間がいたかもしれない。俺だって今回のことがなかったら先輩について行くつもりだった。そこに疑いの余地なんてなかったんだ。
今まで優しくしてくれた先輩の全部が嘘だった、なんて到底思いたくなくて。そこに少しでも真実があったなら、俺はきっと、あのひとの未来を、受けた恩を、仇で返した。
正義。ただそれを言い訳に。
《…物事に断言出来る正解なんてそうねーよ。うやむやなことなんてこの世界にごまんとある。重要なのは自分がどう感じたか、今はそれでいいんじゃん?》
《………内田、たまにはいいこと言うじゃん》
《惚れんなよ。でも寝る前に聞いてね》
《《聞かない》》
「みんな」
わはは、といつもの調子で笑うジルを、茜ねぇを、そして内田を見る。この仲間がいま、ここにいて、無事で、笑っている。
それが確かで、本当なら。俺もみんなのために笑ってよう。
「…ありがとう」
《…———はい、と言うことでシリアスタイム終了。停学利用してみんなでオンラインゲームしようぜ》
《もーうっちーそればっか! 桜子お姫様がいい》
《じゃああたし暗殺者で》
「お前ら出された課題ちゃんとやろうな…」