この野郎。
頭に血が昇る前にとっさに麻袋にしがみつく。きつく縛られた紐を解いて、パッと解いてから
「…えっとあの」
「あ?」
「………これ、俺の友人二人じゃないですね」
「は?」
——————泣きながら口を縛られた知らない強面男子と濃いメイクのギャルを見てあれぇ!? と濱高生二人が揃って声をあげた。
そこでフロア全体の照明がガン、と音を立てて暗転する。
「———おい誰だ、照明つけっ…」
《そうは問屋が卸しませーん》
体育館中に響く謎に鬱陶しい声とアナウンス。その聴き慣れすぎた鼻につく声にパッと振り向いたら、スポットライトが当たった二階の放送室からなぜか、———サングラスを付けたジルと内田が、全身茶色の水浸しで登場した。
そしてメガホンを持った内田がキン、と音割れを起こしつつサングラスを持ち上げる。
《向坂先輩知ってますう。コーラにメントス打ち込んだらマーライオンみたいな驚きの噴射が見れるんす。自衛の策として奇襲受けた時大男二人にぶちかましちゃいました、重量差ハンデの眼球一点集中で》
「ねぇうっちー! 最悪! このワンピお気に入りだったんだけど!」
《ま、ジルはさておき綺麗な顔したにいちゃんだったら多分ガラじゃないんで人違いですけどね》
「内田! ジル!」
あいよー、と二階でVサインをする二人組にうっかり涙が出そうになる。その出来すぎた演出に完全にヒューズが飛んだのか、舌打ちをすると逸人先輩はフロアに向かって怒号をあげた。
「———ざけやがって…お前ら! ここにいる全員ぶっ殺」
まで言ったところで今度は体育館全部の電気がつく。
その光の強さに目が眩み、本来あるべき正常な景色に思わず目を背けると、入口に立った黒髪ショートの女子高生、
スマホを耳にあてがった茜ねぇがにこ、と微笑んだ。
濱高生の四散していた標的が茜ねぇに集中し、俺とジルはさっと青ざめる。
「茜ねぇ何やってんの!」
《おーっとー、まさかここで百人力のお披露目か〜?》
「ちょ、うっちーメガホンうっさい」
「面倒くさいからここらで方、付けようと思って」
「…方?」
俺たちは知ってる。さっぱりした物言いで、彼女が面倒くさいって笑うとき。それが決して、いい方向でないことを。
そして扉が開放し、遠くから聞こえる無数の足音に全員揃って青ざめる。
「…………茜ねぇ、もしかして…」
「手っ取り早く通報した」
そこで堰を切ったようにワッ、と入り口から押し寄せる警察の軍団に一気にフロアがパニックに陥る。入り口側からどんどん取り押さえられる濱高生、ギャル、そして見知ったサッカー部の先輩数人を引きつった顔で見ながらとりあえず言えることは。
茜ねぇそれ。
俺らも停学になるやつやん。