「で? どうすんの大将。あたしらの貴重な時間を買ったんだ、当然乗り込む度胸はあるんだろ」
「おれは降りる」
「うっちー?!」
「生憎負け戦に加担するほど人間出来てないんでね」
「内田、」
引き止めようとしたら振り向きざまにバシ、とボールを投げられた。即座にキャッチしたことでじん、と腕が熱くなる。
「おれお前に言ったよな、濱高の人間には関わるなって。素行不良どころの話じゃないんだよ、その筋のやつもいるって話もある。
大体わかったところでなんていうんだよ、向坂逸人はステータスでしか人を見てないヤリ●ン野郎でーすってか」
「俺がそんなこと言えると思うか」
「お前なら言うんじゃん? 馬鹿だから」
戯けた調子でその心、誰が為? と問われて俺も俺自身がわからなくなる。
「俺は…少しでもあの子の力になれたらと思って」
「それでおれたちの身が危ぶまれることになってもか」
その言葉にはっとする。
ジル、茜ねぇ、それから内田。それまで静かに話を聞いていた後ろの二人はただ心配そうにこっちを窺っていて、目の前にいた内田にぐい、とジャージの胸ぐらを掴まれる。
「お前その目で見たんだろ? 向坂に歯向かった人間がどんな目にあったのか。目の前の間違ってるもん正したいって気持ちはわかるけどそれにしちゃ向こう見ず過ぎるよ」
「でも」
「お前はあの子のなんなんだ」
藍沢透花が好きなのか、と真っ向から問われて、言い淀んだ。情け無いことに、しどろもどろと視線が散った。ずるいとさえ思った。俺が答えられないのを知ってて、内田はわざと聞いたんだ。
どん、と胸を押されて後ずさる。
「て、ことでブン。あの子の自由は諦めろ。おれらじゃ手に負えねーよ、到底太刀打ちできっこない」
「…けど、じゃあ」
あの子の気持ちはどこにいくんだ。
誰にも聞こえない小声で呟いた言葉なんて、体育館の騒音に掻き消されて消えてしまう。「興醒め」とだけ言ってバックれてしまう内田がいなくなってから、背後で茜ねぇとジルの声が聞こえた。
「…じゃあ好きでもない人とこれからあの子、何も言わずにそばにいるってわけ」
「透花ちゃんかわいそう…」
世界には、仕方のないことがある。
これもそう、きっとそれだけだ。