「なるほどね。遂に化けの皮剥がしやがったな向坂め、おれ初めっから気に食わなかったんだ」

 
 ドリブル、ドリブルからの、シュート。

 ファミレスで過ごした日以降の出来事は、授業中に皆に話した。顧問不在となった体育の授業はほぼ無法地帯で、体操着を着てるってだけで舞台袖で喋る学生やジャージでチャンバラごっこに励むもので溢れかえっている。

 ゴール下からドリブルしながら戻ってきた内田に、壁にもたれた茜ねぇは半目で言う。


「散々絶賛してたやつがなんか言ってる」

「おれは風見鶏だもん。必要だったから向坂にへこってだけ、じゃなきゃ誰にでも尻尾ふらねーよ」

「うっちーサイッテー」

「それほどでも」

「あ、でもそれじゃ一年の時聞いた噂は本当だったんだ」

「噂?」

「そうそう。“向坂逸人が濱高の不良と放課後戯れてる”ってやつ」


 ・・・。


「なんでそれを早く言わない」

「めんどくさかったから」


 きゃーブンちゃん壁ドンかっこいー♡ と黄色い声を上げる外野は無視してくっ、と茜ねぇから顔を逸らす。それが例の茜ねぇが言いかけてた先輩にまつわるネタだったってわけか。嘘だろそんな。もっとしつこく問い詰めとくべきだった!

「それに前も言ったけど真偽も定かじゃない噂なんて迷信も同然だ。今回の検証でそれが本当って分かったんだ、結果オーライじゃないか」

「何も結果オーライじゃない!」

「見せしめに利用されたにしろそいつが藍沢に手を出していたのは事実だったんだろ。それが向坂の気に障ったなら当然の報いだ、ちょっとアウトレイジだけど」

「アウトレイジの域じゃないっ…」


 どれもこれもきっと止めることが出来たんだ。俺がその場で藍沢さんを突っぱねていれば、彼女と話をしなければ。あのサッカー部の先輩だって、あそこまでの仕打ちを受けなくて済んだかもしれないのに。