ぽってりした唇に透き通るような色白の肌、大きな目。長い睫毛と、おろした少し猫っ毛の黒髪は艶を帯びて制服の上を遊んでいる。まるで人形みたいだしこれは男受けするわ、とまじまじと別世界の人間を見るようにガン見していたのがバレたのか、ぼん、と火がついたように赤くなる相手に二秒後しまった、と顔が引き攣る。
それで弁解しようにも三度「見ないでください」と悲鳴混じりに叫ばれるし。見ないでってのはあれか、有料か。そっかお金かかるんかな、と空を仰いだら、忘れた頃にぽそりと耳をかすめるか細い声。
「…私は、貴方に救われた」
「…前に面識があったってこと?」
「覚えてないんですか?」
驚いたように振り向かれた。空を眺めたまま、半笑いで視線だけが散歩する。
「………ごめん」
「ますます好きになりました」
「なんでだよっ!」
「人を救う行動や言葉って、飾り気のないその人が持ってるありのままの人間像だと思うんです。波多野先輩は自然とそれが出来て更に記憶になかった、なんて純真なんですか素敵過ぎてあの、好きです」
「ちょちょちょっ…」
さっきまでの恥じらいはどこへやら学園1の美少女にぐいぐい迫られて後ずさる。本来であれば誰もが羨むシチュエーションだが今はそれどころじゃない。冷や汗を垂らしてダメだもうベンチない、と右手が空を裂いたところで
「そもそも藍沢さんには付き合ってる人がいるでしょう!」
その言葉に彼女は驚き、動きを止める。俺も負けじと覚悟を決めて向かい合った。
「俺がきみに何を言ったのか覚えてないのは申し訳ないし俺を好きになってくれたのは嬉しいけどっ…けど藍沢さんには向坂先輩って人がいるじゃん、それもあんなカッコよくて人望もあって、優しい。二人付き合ってるんでしょ?」
「…」
「何があったの、喧嘩したんなら話くらいなら」
「逸人先輩は」
またベンチの端に戻り俯いた彼女がギュッとスカートを握りしめる。
「…… やさしい、です」
「………うん」
「だけど、」
ぱ、と顔を上げた彼女が、瞬間俺をちゃんと見る。
そのときが初めてだった気がする。淡い灰色の虹彩が幾重もの光を散りばめて、確かに何かを訴えた。揺れる大きな瞳に違和感を覚え口を開きかけたところで、しかしぱっと逸らされる。