僕と武が2組と8組の集合場所である大会議室に着くとほぼ同時に始業のチャイムがなった。

慌ただしく後ろの空いている席に2人並んで座った。
僕らの列から3つ先に美香が座っていた。

最初の司会は体育委員がするようで、坊主頭で身体ががっしりとした、いかにも野球部といった男子生徒がプリントを読み上げている。

「えー、僕らの色は青になりました。それでまず最初に役職決めをしたいんだけど……」

僕の顔はしっかり前の方を向いているが、視界の右端に映る美香を意識的に捉えている。美香が隣の女子生徒と話す度に、美香の茶色く長い髪の毛が揺れる。その時にだけわずかに見える美香の鼻先と楽しそうに細められた左の目に、体中を巡る血液が熱くなるのを感じる。

色長から順番に特に争いもなく決まっている。
美香の横にいた生徒が何かの役職に選ばれたらしく立ち上がった。
その特徴的なツインテールには見覚えがあった。莉子だ。
美香に夢中で隣にいた莉子のことが目に入っていなかった。

莉子はダンス部らしい。副色長に推薦されていた。
その様子を見ていた武がヒューと口笛を吹くと、「武うるさいぞー」と野次が飛んだ。教室中に笑いが起こる。呆れながら武を見る。

ふと目線を前にやると、美香も楽しそうに笑っていた。

その瞬間、僕の中の暗い生き物が目を覚まし、お腹の中を這いずり始める。

高校3年生ともなれば、僕の中にある醜いものの正体も当然分かる。
それは中学生の僕は認めることの出来なかったもの。

その生き物を沈めようと無理矢理に思考を止める。
気にしないフリだ。誰も咎めないし誰も気づかないけれど、僕は僕のために自分の気持ちを知らんぷりする。

そうしてまた、前を向く。
ポーカーフェイスが得意なのはきっと僕だけじゃない。
そういうお年頃だから。


何はともあれ、その後もスルスルと事は進み、みんなで決める事は終わったみたいだ。
席を立つ前に美香の方を見たけれど、案の定目が合うことはなかった。

教室へ戻る最中、隣で歩いている武が何の役職にも就いていないことを思い出した。
目立つ武は何かしらの役職をするかと思っていたが何にも立候補していなかったし、賑やかな仲間に推薦されても断っていた。
何かやりたいことがあるのだろうか。

「武、体育会何やんの?」

「んー、決めてねえよ」

僕は武の事を勝手にイベント大好き系男子だと見なしていたので、その武の反応は意外だった。

「逆に奏太は?」

「俺は普通にペンキ塗るやつ。楽そうだし」

特に決めていたわけではないが、ダンスは所謂陽キャの集まりだろうし、衣装は女子がやるだろうから、必然的にそうなるだろう。

「ふーん、じゃ、俺もそれにしようかな」

「え、武そんなんでいいの?」

僕と違って運動神経も人当たりも良い武はもっと表に出る仕事が向いていると思っているし、実際そうすると思っていた。

「なんだよそれ。てか、お前こそそれでいいの?」

「どういう意味?」

武の言いたいことに全く検討がつかない。

「奏太、美香さんの事好きだろ」

「えっ」

驚きのあまり、武の方に勢いよく顔を向けると、同時に接地した足が変な方向に曲がり、僕の体は思い切り前方に倒れ込む。

「うわあ」