今日僕のクラスである2組と彼女のクラスである8組が今年の体育祭で同じ色になることが分かったからだ。

月曜日の朝で体が重かった僕は、一気に空も飛べそうなほどにまで軽くなった。

さらにこの後、初めての色合同打ち合わせがある。
つまり僕と彼女とが同じ空間で6,7限目を過ごすのだ。

残念ながら僕と彼女は被っている授業が1つも無かったので、この1年間で始めて一緒に授業時間を過ごす。

僕の持っている全ての運を使い切ったんじゃないかと思う。
あの日がサプライズだとしたら、今日は運命の日だ。

しかも今日から今週の土曜日である体育会まで1日1回は美香を見ることが出来るのだ。

普段神様なんか信じていない僕だったが、今日ばかりは神様に感謝した。

いつもよりずっと長かった5時間目が終わり、僕もソワソワと立ち上がり移動教室の準備をする。しかし、自分が挙動不審になっていないか心配になりすぐに動きを緩めた。机の上を片付ける手のスピードを少しだけゆっくりにした。

そんな僕のささやかな努力は無駄であったことがすぐにわかった。

「なんかお前、どうした?」

頭上から振ってきた言葉に僕は魔法をかけられたかのように固まる。
見上げると(たける)がニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら近づいてきていた。

「べ、別にどうもしないけど」

お調子者の武に指摘されたことに少し危機を感じる。

こいつにバレるのだけはまずい。
悪いやつでないことはわかっているが、如何せん口がとてつもなく軽い。
武に話したことは全校の前で話したことだと思え、と言うのがうちのクラスでの暗黙の了解だ。
おまけに武は人の色恋沙汰に首を突っ込むのが大好きなのだ。

はあ、絶対色々聞かれる。

「ふーん、まっ、いいけど」

予想外な返事に驚いて僕より10センチ以上高い武の顔を見上げると、さっきまで僕に向けていた興味の視線は廊下の方に向けられていた。

その視線を追うと、高い位置でふたつに結われた髪型が特徴的な女子生徒が歩いていた。
普通なら高校生でその髪型はいかがかと思うが、大きく印象的な猫目のお陰かその子にはとても似合っていた。

なんか学園ドラマかアニメに出てきそうな子だな。

するとさっきまでぼうっとその子を見ていた武が突然大きな声を出した。

「かわいいよなあ、莉子(りこ)ちゃん。話してみてえ!」

それを聞いていたクラスメイト達がこっちを見てクスクスと笑っている。
しかしそれが好意的な笑いであることは明確であった。
おそらく面白半分、呆れ半分といったところだろう。

一方の僕は武と違ってそういうことを言ってはいけない側の人だ。
僕みたいなやつが勘違いしてあっち側と同じ行動をとれば嘲笑か苦笑のどちらかだろう。

「まあ、なんか整ってると思う」

だからこういう時はあまり興味が無い風を装う。
否定はしないけれど、過剰な肯定もしない。
かといって、あまりに無関心だとクールぶってるイタいやつだと思われるからあくまで肯定側に立つ。

「はあ、奏太はつまんねえなあ。女に興味ねえのかよ~」

武は何かのキャラクターみたいに額に手を当ててやれやれとでも言うかのように大げさに首を横に振る。

「別にそういうわけじゃないよ」

「お前、まさかゲイ?俺のこと狙ってんの?」

今度は手を大きく開いた口に当てて目を丸くしてわざとらしく驚いた顔をする。そしてその後に両手で自分の肩を抱いて「こわ~い!」と体を左右に揺らす。

その仕草に僕はちょっとだけイラッとしたから

「違うよ。ゲイだって武みたいな変な奴狙わないよ」

と少し意地悪に言ってやった。

武はクラスではいつも冗談ばかり言っていて、真剣に話しているところを見たことが無い。なのにたまに、鋭いことを言ったり、気の利いたことを言うからクラスでも一目置かれている。
バスケ部に所属していた武は部活のエースだったらしく、普段とのギャップに女の子からも人気らしい。
2年半同じクラスだが、僕は未だに武のキャラがつかめない。


「いや、俺みたいなのが好きなやつもいるだろ」

そこムキになるところかよ。
武が真顔で反論するのが可笑しくてつい笑ってしまった。