【相坂リンの告白⑱】

 食事会の数日後……

 私を始めとした参加メンバーが全員呼び出された。
 私フルール、シスターシュザンヌ、シスターステファニー。
 呼び出したのはシスタージョルジエット、集合場所は彼女の寄宿舎の部屋である。

 私達聖女は基本『寄宿舎』住まいである。
 最近は治癒士の仕事の過酷さから、聖女の成り手が減っており、
 最初から個室が与えられる。
 
 また結婚して、即退職というパターンも結構多い。
 なので、寄宿舎の空き部屋は結構あるのだ。

 閑話休題。

 シスタージョルジエットが何故私達を呼んだのか用事は告げられなかった。
 だが、おおよそ予想はついていた。
 
 多分、アランさんへの接し方、対応に関する彼女の極端な方針変更、
 傍から見て彼女のマッチポンプ的ともいえる行動についてであろう。

 シスターシュザンヌと私は「結果良し」もあり、
 敢えて追及しようとは思わなかった。
 しかし唯一、病院でも怒りが収まらなかったのが、
 シスターステファニーである。

 私との『トオルさん争奪戦』に敗れ、シスターの中では唯一カップリングへ至らなかった無念さは想像するに難くない。

 それ故……
 私、シスターシュザンヌと続き、
 一番最後に登場したシスターステファニーはいかにも機嫌が悪そうであった。

 こうして全員が揃ったので、シスタージョルジエットが話を始めるようだ。

「お忙しい中、参集して頂いたのは外でもありません、用件は勿論、皆様への謝罪、すなわち懺悔です」

「…………」

 私も含め、誰も言葉を発さない。
 当然かもしれない。
 もしも筋を通すのなら、このように呼びつけるのではなく、
 自ら各自の部屋へきちんと赴き、ちゃんと謝罪するのが当然だからだ。

 教会らしく懺悔をすると言われても、それはお門違い。
 シスターステファニーの表情が最も険しいのは言うまでもない。

 だがシスタージョルジエットは、神妙な面持ちである。
 軽く息を吐くと、深く深く頭を下げた。
 そして、

「皆様、今回私は誤った情報に踊らされました。皆様にはご迷惑を、そして更に大きなご迷惑をかけるところでした。誠に申しわけございません」

 謝るのは当然かもしれないが……
 私が知りたいのは、その誤った情報についての詳細だ。

 そんな私の意図を見抜いたかのように、シスタージョルジエットが説明を始めた。
 ここで全て述べると長いので要約するが……
 簡単に言えば、訴えた女性達の『逆恨み』であった。

 確かにアランさんは、多くの女性達とデートをした。
 だがあくまでも友人としてと、きっぱり前置きしたのと、
 単に食事に付き合ってとりとめのない話をしただけで、
 相手女性の手さえ握らなかったそうだ。

 シスタージョルジエットが鋭く問い詰めたのに対し、
 堂々と穏やかに、且つ丁寧に説明してくれたというアランさん。
 
 彼の態度を見て、シスタージョルジエットは凝り固まった疑念が本当に真実なのか、改めて調べようと思ったらしい。

 アランさんは当該女性と一緒に、
 事の真相を確かめても構わないとまで言い切ったそうだ。

 だからシスタージョルジエットは、改めて女性達へ直接確かめたという。
 アランさんはさすがに同席させなかったが、教会お得意の『懺悔』という形で……
 結果、訴えは全て真っ赤な嘘だというのが発覚した。

 また女性達の嘘は、当然アランさんにも伝わったのだが、
 彼はおおらかに「お構いなし」で許したという。

 話が終わると……
 再びシスタージョルジエットは謝罪して頭を下げた。

 私は軽く息を吐いた。
 やっぱりという苦い思いと、
 大事に至らなくて良かったという安堵が心に入り交じる。

 そして傍らのシスターシュザンヌと顔を見合わせ、頷いた。
 アランさんと結婚を控えたシスタージョルジエットを許そうというアイコンタクトである。

 だが一番肝心のシスターステファニーは?

 私とシスターシュザンヌが恐る恐る見やれば……
 何と!
 満面の笑みを浮かべていた。

 そして、シスターステファニーの方から嬉々として話しだした。
 こちらもだいぶノロケが入っていて、話が長いのでこちらも要約すると……

 食事会翌日の晩に、彼女は祖父・枢機卿の仕切りで、見合いをしたそうである。
 当初はいろいろな要因から、あまり気の進まない見合い話であったらしいが……
 実際に相手と会ってみたら、上級貴族のイケメンで性格良し、文句なしの青年だったらしい。

 元々『面食い』のシスターステファニーは相手の誠実さも感じ、ますます好印象を持ったという。
 そんな浮き浮き気分のシスターステファニーを見て、
 一番安堵しているのは、当然シスタージョルジエットである。

 ここで私だけがピンと来た。
 トオルさんの超絶スキル『愛の伝道師』がまたまた発動したのだ。

 私はつい驚きの感情を口に出してしまう。

「凄いな……」と。

 でも私のつぶやきはしっかりと聞かれていた。
 シスターシュザンヌが訝し気に尋ねて来たのだ。

「どうしたの? 何が凄いの?」

「い、いえ! な、何でもありません」

 慌てた私は懸命に誤魔化した。
 幸い、シスターシュザンヌはあまり追及しては来なかった。

「それよりシスターフルール、私お礼を言わなきゃ」

「お礼? 誰にですか?」

「決まっています。当然、レーヌ子爵様ですよ。あの方のご尽力なくしては、私、ジェローム様と親しくはなれなかったわ」

 ああ、さすがはシスターシュザンヌ。
 トオルさんの超絶スキルは知らずとも、彼女だけがトオルさんの裏側での尽力を見抜いてる。
 やはり貴女は聖女の(かがみ)だ。

 という事で……
 愛の伝道師トオルさんのお陰なのか、私達4人は全員幸せを掴む事が出来たのであった。