【相坂リンの告白⑫】

 見つめ合うシスタージョルジエットとアランさん。
 果たして、どうなってしまうのか?
 先行きを考えると不安しかない。

 トオルさんと再会出来たのは、凄く嬉しいけど……
 大きな不安が(よぎ)る。

 そんな事をつらつらと考えていて、
 ふとトオルさんを見やれば、彼も何だか不安そうな面持ちだ。

 もしやシスタージョルジエットの思惑がバレた?
 ……と、思ったら違った。
 トオルさんの視線は隊長のジェロームさんへ向いていたから。

 ええっと、ジェロームさんって硬派と聞いていたけど、
 それ以上に女性に対して『奥手』みたい。
 雰囲気が暗い……否、硬い。

 ジェロームさんがそうだから、対面のシスターシュザンヌの雰囲気もぎこちない。
 話は全く弾んでいないようだ。

 困っているらしいトオルさんを、
 ここは私がフォローしよう。

「こんばんわっ!」

 私は元気よく、トオルさんへ挨拶をした。
 先ほど話したカフェで打合せをして、
 私と彼はさりげなく『初対面』を装っている。

「こんばんわ、フルールさん!」

「こんばんわ! ええっと、クリスさんって、もしかして愛称ですか?」

「ええ、本名はクリストフ、クリストフ・レーヌです」

「そうなんだ! この出会いって運命なのかしら? うふふふふ」

 ああ、失敗!
 つい嬉しくなって調子に乗り過ぎた。
 
 見やれば私のノロケを聞いたトオルさんが困った顔をしている。
 いきなり、そんなにフレンドリーじゃいけないよって顔してる……
 
 ごめんね、トオルさん。
 運命の再会を遂げて、とっても嬉しいの。

 でも(はた)から見たら、不自然。
 私達が『特別な関係』だって、ばれてしまうよね?
 
 でも、まあ良いか……ばれたって。
 何とでも言い訳できそうだし。
 私は、嬉しくてたまらないし、
 
 うん!
 ここは、気持ち良くちゃんと挨拶。
 
 もっと私本来の、
 元気印の明るいキャラをアピールしよう。
 そうしよう。

「私、シスターフルール、本名はフルール・ボードレール! 宜しくね」

「はい、宜しくお願いします」

「うふふ……私、もっとクリスさんの事を知りたいわ」

「俺もさ!」

 男女間の会話が盛り上がったところで、
 次の飲み物を頼むのが、この異世界合コンの常道って聞いている。
 これって、前世の合コンと一緒。

 そして、私が飲みたいモノも、決まっている。
 乾杯したエールよりも、断然ワインの方が好き。
 
 このような時、トオルさんは本当に気配り上手、勘も良い。 

「フルールさん、飲み物頼もうか? ワイン?」

 と聞いて来た。
 私は、打てば響けと返事をする。
 つい嬉しくて笑顔になる。

「はい! 白ワインが大好きです! うんと冷やしたの!」

 ここでトオルさんは、右側のジェロームさんを見た。
 つい私も同じくジェロームさんを見たけれど
 硬くなるどころか、完全に固まってる。

 シスターシュザンヌを見れば……
 こっちもまずい、しらけ切ってる。
 
 これは本当にまずい。
 って感じでトオルさんが呼びかける。

「ええっと! ジェロームさん?」

「ななな、いきなり何だ?」
 
「ジェロームさんとシュザンヌさんの飲み物も、一緒にオーダーしますよ。シュザンヌさんへ、何が飲みたいのか、聞いてみて下さい」

 おお、トオルさん、ナイスフォロー。
 だがしかし!

「はぁ? 何故だ? 彼女の杯には、まだあんなにエールが残っているぞ。勿体ない!」

 ああ、ジェロームさんって……本当に鈍い、気が利かない人。
 部下のトオルさんがこんなに気を遣っているのに!
 
 と、やきもきしていたら、
 トオルさんが何かひらめいたみたい。
 
「じゃあ、シュザンヌさんの残ったエール、俺が貰っちゃおうかなぁ?」

 わあ!
 ショック!

 クリスさんの硬派なイメージが台無し。
 まるで道化役のようなおどけた物言い。

 それより、この提案は私的に超NG!
 絶対に阻止しなければ!

「わぁ! クリスさんったら! 駄目、浮気しちゃあ」

 自分でも分かる。
 私は少し怒ってる。
 トオルさんが、他の子が飲んだエールをなんて!
 ダメダメ!
 
「それって、シスターシュザンヌと間接キッスという事になるでしょう? いきなり浮気はダメダメ! 私のエールを飲んでね!」

 と、言えばトオルさんが『名案』で切り返して来る。
 
「じゃあ、俺はフルールさんのエールを飲みます。だから、ジェロームさんもシュザンヌさんのエールを貰って下さい。間接キッスで!」

 ああ、素敵!
 さっすが、トオルさん!
 思わず、喜びの声が出る。

「やった!」

「うふふ……」

 トオルさんとは、息がばっちり合ってるって感じる。
 私は、勝利のガッツポーズ。
 チラ見すればシスターシュザンヌも、初めて笑顔を見せている。
 よっし!
 作戦は大成功!

 しかし!
 意外な裏切者が現れた。
 それはジェロームさん!

「いや! 俺は赤の他人が口をつけたエールなど飲めん! どうしたんだ、クリス! いつものお前らしくないぞ!」

 えええええっ!?
 この人、何言ってるのよ!

 ねぇ、ジェロームさ~ん、空気読んでくださ~い!
 部屋がパキパキ凍るくらい、凄い『大寒波』が来てしまうわ!

「…………」

 案の定、シスターシュザンヌはとっても白けた顔付きに、
 私も肩をすくめた。

 トオルさんは、横に居るアランさんをちらっと見た。
 困り果て、『救援』を求めるみたい。
 
 そういえば、と私は思い出した。
 こちらも大が付く問題が残っていたって。

 シスタージョルジエットは? 
 不俱戴天(ふぐたいてん)の敵? アランさんとは、どうなったのかしら。
 
 こっちが『大寒波襲来』だったら、
 もしかして……
 『憎悪の嵐』が吹き荒れていないかしら、怖い!

 私が、おそるおそる見やれば……
 何と!
 驚きの光景が展開されていた。
 
 仲睦まじく語り合う、もろ恋人みたいな……
 シスタージョルジエットとアランさんふたりの姿があった! 

 は?
 何!?
 さっきまでの話とちが~う!
 全然違う!!

 シスタージョルジエットったら、
 アランさんと凄く良い雰囲気になっちゃってる!?
 一体、どうしたの?

 わけが分からない私は、戸惑い混乱してしまったのである。