【相坂リンの告白⑪】

 午後7時、レストラン『探索《クエスト》』個室、宝剣の間……

 今日の食事会という名の自由お見合い、すなわち実質的な合コンは、
 私の後輩シスタージョルジエットが企画し手配した。
 
 お相手は、王都の警備にあたる王都騎士隊の精鋭騎士様達である。
 その中に、運命の再会を果たした私の彼氏騎士隊副長クリストフ・レーヌ子爵様、すなわち転生した『トオルさん』も居た。
 
 騎士様達は、ひとりを除いて全員明るい。
 爽やかな笑顔が素敵である。
 中でも私から見て、最もイケメンでカッコいいのは、トオルさんなのだが。

 ただ唯一、隊長のジェロームさんだけはとても生真面目って感じで、やや表情が硬め。
 まあ、仕方がないかもしれない。
 超が付く硬派で真面目だと、評判の御曹司だから。
 
 少なくとも、女性にだらしない軟派の『チャラ男君』よりはず~っとマシである。
 シスタージョルジエットによれば、アランさんがそういうタイプらしいのだが、彼の礼儀正しそうな物腰から、とてもそうは見えない。
 
 さすがに……
 シスタージョルジエットの思惑は、トオルさんへは言えなかった。
 この飲み会の趣旨が、アランさんを徹底的に弾劾し、吊し上げて告発するモノだなんて……
 
 う~、頭痛い。
 ストレスで胃も痛くなりそう……
 
「こ、こんばんは!」
「聖女の皆さん、お忙しいところお時間を頂きありがとうございます」
「宜しくお願い致します」
「あの子……可愛いっ!」

 騎士さん達は、挨拶をして来たり、嬉しそうに騒ぐ若い子も居た。
 
 トオルさんはというと、やっぱりというか、
 「お忙しいところをありがとう」と優しく労りの言葉をかけてくれた。
 うん、素敵だ!

 ここでシスタージョルジエットが、「そっ」と私へ耳打ちする。
 やはり……念押しだった。
 当然、例の件の……

「シスターフルール、準備は宜しいですか? 最初の取り決め通り、あいつの化けの皮をはぎますから、私をしっかりサポートしてください」

「は、はい……」

 やっぱり気乗りがしない。
 私は遠回しに「当惑」の返事を戻した。
 だけど、怒りに燃えるシスタージョルジエットには全く伝わらないようだ。

 あ~、また胃が痛くなる~。
 
 さてさて、今夜のメンツは女4人に男4人。
 シスタージョルジエットの指示で、男女各4人ずつ並列、女と男が対面になるように向かい合う。
 
 通常は職級、年齢等を考慮し、席順を決める。
 なので、シスターシュザンヌ、私、シスタージョルジエット、シスターステファニーの順に座った。
  
 また会が終わるまでに、全員が話せるようにもするのが、このような会の常識。
 一定の時間が経てば、男子のみが席を時計回りに移動する。
 暗黙の了解なのだが、シスタージョルジエットからは、全員へ通達があった。
 
 もしもファーストインプレッションで、お互いに意識したりとか、
 既に思惑があったしても、以上の仕切りに例外は認められないらしい。
 
 改めて見やれば……
 トオルさんが、私の真向かいに座ったのでホッとする。
 
 だが、今後の女子軍団の動向には重々注意しなければならない。
 え? アランさん糾弾の件?
 いえいえ、それもあるけど、違う件なのです。
 そう、トオルさんの件。
 すなわち、私以外のシスター達が、魅力的なクリスさん、否!
 トオルさんへ熱くアプローチする可能性があるし、
 『彼女』である私としては全く気を抜けないもの。

 そんなこんなで、最初は……自己紹介からである。

 幹事同士は知り合い。
 だから、当然お互いのフルネームを知ってはいる。
 しかし、他の参加者は最初、ファーストネームと職業のみ名乗る。
 もしも話が弾んで親しくなったら、ここで初めてフルネームと詳しい素性を教え合うのが、異世界合コンのローカルルールらしい。

「ジェ、ジェロームだ。お、王都騎士隊の隊長を務めている、今回は全員が騎士。俺の部下なので名前だけ名乗らせる」

「クリスです」

「アランです」

「リュカで~す!」

 男性陣の紹介が終了し、続いて女性陣である。

「シュザンヌです! 創世神様にお仕えする聖女をやっています。こちらも全員聖女だから名前だけ言いますね」

 シスターシュザンヌから目で促され、私が続く。

「フルールよ」

 そして同じく、他のふたりも、

「ジョルジェットです!」

「……ステファニー」

 わぁ!
 やっぱりというか!
 
 改めて見やれば、ジェロームさんを始めとして、タイプはそれぞれ違う、
 だが、騎士様は全員凛々しい。
 私も、トオルさんが居なければ、目移りしていたかも!
 
 自己紹介が終わると、乾杯に……
 店の方も心得ている。
 冷えたエールのジョッキが出て来るタイミングは、絶妙かも。
 
 ちなみに、この異世界では、魔力で冷やせる冷蔵庫が普及しているという。
 なので、かつての地球の中世西洋と違い、食材の鮮度は抜群でとても美味しい。
 これ、ラノベで言う『ご都合主義』って事かしら?
 
 飲み物は冷蔵庫で冷やすのは勿論、店専属の水属性魔法使いが居て、
 驚くほど冷やした飲み物を出してくれる。
 
 挨拶後に、乾杯の音頭を取るのは男性幹事の役目。
 今回は、アランさんである。

「では! 今夜の素敵な出会いを祝して! 貴女達、聖女の美しさに乾杯!」

 うっわ~。
 さすがは、イケメン騎士。
 きざなセリフも違和感が全くない。

 さあ、乾杯だ。
  
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」

 カッチーン!
 コーン!
 コン!

 陶器製のマグカップが、軽くぶつけられる乾いた音が鳴り響く。

 さあ、いよいよ合コン……否、食事会の開始である。
 私は左横のシスタージョルジエットを、そっと見た。
 
 一見可愛い笑顔なのだが、やはり表情が硬い。
 少々心配、否、大いに心配。

 シスタージョルジエットの真向かいに座るのは、彼女の『標的』アランさんである。

 彼が言った乾杯の音頭を聞き、まずは透き通るような美声に驚いた。
 まるで一流歌手のようだ。
 
 もしも、こんな声で甘く愛をささやかれたら、女子はたまらない。
 加えて、さらさらの美しい金髪に碧眼。
 端整な顔立ちは、女子にもてもてなのも凄く良く分かる。
 
 片やシスタージョルジエットだって、女性から見ても魅力的。
 もしもふたりがくっつけば、とてもお似合いのカップルなのだが……
 
 ふたりを見守る私は、何となく嫌な予感がしたのである。