普段よりもだいぶん遅く目が覚める。窓の外が薄暗くて、小さな音が普段よりもよく聞こえた。薄いカーテンの向こうで、水滴が窓にうちつけるのが見えた。
窓の外を見ようと重い頭を持ち上げてから、昨日の夜から熱が出ていたことを思い出した。
窓から見えるお母様の花達が、降り注ぐ水滴を浴びて踊っている。ため息を溢しそうになって、あわてて口を押さえた。わたしがため息をひとつ溢すたびに、花の元気が少しずつ無くなっていく。などというお母様の言いつけを未だにうっすらと信じている自分が、少し可笑しくて小さく微笑んでしまう。
窓の外をぼんやりと眺めていると、フランソワが勢いよく部屋に飛び込んできた。お姉様の元気がないからと、彼女が持ってきたのは細身のグラスだった。
グラスの中にあったのは、りんごジュースと波紋。ジュースの水面で波紋同士がぶつかりあって、ぱらぱらと音を立てている。これ、どこで見つけたの? と問うと、波紋は花園のバケツから掬ってきたのだという。ジュースの水面が波打って小さな輪を作り、次々現れては消えていく。その様子を見ているだけで、1日過ごせてしまいそうだ。
そっ、とグラスを口に運ぶ。口の中で液体がしゅわしゅわとはじけて、不思議な感じだ。こんないいもの飲んだら、すぐに元気になれるわ。と言うと、フランソワはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。彼女が飛び跳ねているところを見て、わたしは、水面で小人が飛び跳ねて、踊ってところを想像した。
外界はすでに水滴の世界。少し湿った空気と、濡れた石の匂いが辺りを包む。水滴がもたらしたダンスパーティが甘い時間を彩り、少し重かった気分をどこかへやってしまった。妹が運んできてくれた大きな世界のはじっこが、小さな世界を変えたのだ。もう、ため息は胸の奥深くへ引っ込んでしまったようだ。
ありがとう。とフランソワの小さな頭を撫でてやると、彼女は柔らかい髪をわたしの手に擦り付けて、ころころと笑った。
窓の外を見ようと重い頭を持ち上げてから、昨日の夜から熱が出ていたことを思い出した。
窓から見えるお母様の花達が、降り注ぐ水滴を浴びて踊っている。ため息を溢しそうになって、あわてて口を押さえた。わたしがため息をひとつ溢すたびに、花の元気が少しずつ無くなっていく。などというお母様の言いつけを未だにうっすらと信じている自分が、少し可笑しくて小さく微笑んでしまう。
窓の外をぼんやりと眺めていると、フランソワが勢いよく部屋に飛び込んできた。お姉様の元気がないからと、彼女が持ってきたのは細身のグラスだった。
グラスの中にあったのは、りんごジュースと波紋。ジュースの水面で波紋同士がぶつかりあって、ぱらぱらと音を立てている。これ、どこで見つけたの? と問うと、波紋は花園のバケツから掬ってきたのだという。ジュースの水面が波打って小さな輪を作り、次々現れては消えていく。その様子を見ているだけで、1日過ごせてしまいそうだ。
そっ、とグラスを口に運ぶ。口の中で液体がしゅわしゅわとはじけて、不思議な感じだ。こんないいもの飲んだら、すぐに元気になれるわ。と言うと、フランソワはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。彼女が飛び跳ねているところを見て、わたしは、水面で小人が飛び跳ねて、踊ってところを想像した。
外界はすでに水滴の世界。少し湿った空気と、濡れた石の匂いが辺りを包む。水滴がもたらしたダンスパーティが甘い時間を彩り、少し重かった気分をどこかへやってしまった。妹が運んできてくれた大きな世界のはじっこが、小さな世界を変えたのだ。もう、ため息は胸の奥深くへ引っ込んでしまったようだ。
ありがとう。とフランソワの小さな頭を撫でてやると、彼女は柔らかい髪をわたしの手に擦り付けて、ころころと笑った。