お父様に、こっそり雲を食べていたことが露見してしまった。
隠れて家のものを食べてしまうとは何事か。もう大人になるのだから、もっと自分を律することができるようになりなさい。とのことである。
雲を食べたということは知られてしまったが、少々はしたない食べ方をしたということまでは知られていないようだ。早々にセバスチャンを口止めしなくては。

今日は、おやつ抜きになってしまったので、自室に隠してあったクッキーを摘むことにした。先日こっそり拝借したクッキーを、お気に入りの朱いハンカチーフで包んで、仕舞っておいたのだ。丸くて小さくて可愛らしい。焼き菓子の中でも、わたしはクッキーが一等好きだ。屋敷の壁や床が、一面クッキーになる夢を見るほどである。
指で転がしたり、つまみ上げて眺めたり。最大限楽しんでから口に入れる。仕舞ってからしばらく経ってしまったので、すこし湿気ってしまっているが、依然としてその軽い食感や甘味は健在である。
菓子としての美味しさは一段落ちるが、入手経緯や現在の状況が与える多少の背徳感によって、おやつとしての美味しさは、今までのどのおやつにも負けないものとなっている。

背徳的なクッキーを味わっていると、突然部屋のドアが開いた。飛び上がって振り向くと、フランソワが部屋に駆け込んできた。
お姉様、何をしているの。と言うフランソワに、内緒よ。とクッキーを一枚渡してやると、彼女はクッキーを素早く口に放り込んだ。
あんまり美味しくないわ。などとのたまうようでは、まだまだ子供である。彼女がクッキーの本質に気付ける日が来たら、またここで同じものを振る舞ってやろう。そんなことを考えながら、わたしは最後の一つを口に入れた。