(なんか嫌だ)
 と、正直、僕は思ったが、同時に、どこか飯ウマな気分もあった。

 同じ野球部の、エースの四方河のことを思い出したからだ。
 あいつは毎年、学校中の女子からチョコをもらっている。
 紙袋に詰め込んで、落としそうになりながら部室に持ってきては「食ってくれよ」とか言って、俺らに配る。
 いかにも、いい奴みたいな笑顔で、実に自然に、「俺ひとりじゃ食えないから」とか言ってのける。
 まあ部員たちも、ただでチョコが喰えるんだから悪い気はしない。やった、サンキュー、と言わんばかりにバリボリ喰いまくる。僕だって喰った。

 だけど、やっぱり喰いながらも、どこかでやっかんでいた。当然だ。
 バレンタインにチョコなんかもらったことがないからだ。
 しかし、今年は!

 (へっ、ざまあざまあ)

 「四方河先輩っ、これっ、食べてくださいっ」
 可愛い女の子たちが真っ赤な顔で渡してくるチョコというチョコが、みんなうんこなんだからな!

 「四方河先輩っ、これ、わたしの気持ちです」

 手渡されるうんこ、うんこ、うんこ。
 四方河の紙袋うんこだらけ!
 しかもあいつは、うんこもらう度に、あの爽やかスマイルで「ありがとね」と返すのだ。

 (ぷっ、うんこ貰って爽やかスマイルで、ありがとね、ときたもんだぁ)

 「ぶはー、早く来ないかなバレンタイン」
 こんなこと初めてだ。
 バレンタインが楽しみで仕方がないなんて。

 そして、当日を迎える。