私は素直に答えた。彼の左胸の辺りには、少し大きめの艶めいた石で出来たシンプルなブローチが留まっていたのだ。彼の着ている服がもともとネイビーだし、ちょっと距離があるから色は判別しづらいけれど、石は深い緑色のようにも見える。
「何が見える? どんな色?」
 さっきまでの態度とは打って変わって真剣な表情で、蒼井くんから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。その勢いに私はたじろいで思わず後ずさり、口ごもった。
「何が見えるって……ブローチじゃないの? 深い緑みたいな色、に見えるっちゃ見えるんだけど、でも」
「でも?」
「色がはっきりとはよく分からないかも。これって何色?」
 確信が持てなくて、私の答えは鈍る。彼のブローチの石は深い緑のような青のような色に見えるけれど、色が深すぎて何となく説明のしづらい色をしていた。
「……やっぱり、そうか」
 私の言葉に蒼井くんががっくりとうなだれる。その拍子に少し緩んだその腕からするりとティレニアが地面に着地し、その場に行儀よく座り込んで彼を見上げた。まるで心配しているかのようなそぶりで。
「ごめん、はっきり答えられなくて」
 こちらが申し訳なくなってくるほどの落ち込みぶりに、私は慌てて彼に声をかける。
「いや、うん、そうじゃないんだけど」
 何が「そうじゃない」なんだろうか。疑問に思う私を前に歯切れ悪く答えながら、蒼井くんは何かを考え込んでいるようだった。
 しばし流れる沈黙。
 ふいに蒼井くんはぱっと顔を上げ、思いついたように尋ねてきた。
「桐生さんはさ、この店内の商品欲しい? どれも貴重で価値のあるものばっかりなんだけど」
「え?」
 唐突な質問に、私は戸惑って店内を見回す。
 昼間の明るい光に照らされた店内は、そこかしこに小さい虹をいくつも放つガラス細工に溢れていて。特に女子なら誰でも足を止めて思わず眺めてしまうような、綺麗なものばかりだ。
「これなんか、中に宝石入ってるんだけど。例えば誕生日プレゼントとか何かの記念品に、これあげるって言われたら、欲しい?」
 蒼井くんが店内を颯爽と歩き、クリスタルガラスを内包した万華鏡を手に取る。彼が器用にその万華鏡のパーツを分解すると、模様を形作る水晶体の中から煌めきを放つ石がいくつも転がり出てきた。