白き月と黒き花は永久を知る

「お前は生贄として追われていたんだろう。それならしばらくは身を隠していた方がいいんじゃないか? お前が嫌だというのなら止めはしないが…。」
(とてもありがたいお話だけど、ご迷惑なんじゃ…)
 雪月は黒蓮の提案に戸惑っていた。今までのことからもう充分すぎるほど信頼しきっていたし、優しい方なのだということもわかっていた。
「ここには、人間が生活するのに困らない程度のものは揃っているから心配しなくてもいいが……それとも俺が怖いか?」
 そう言った黒蓮が、少し寂しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。
(怖いなんて…!)
 もちろんそんなことは微塵も思っていない。雪月は慌てて首を横に振った。
「違います! 私はそう言ってくださってとても嬉しいです。でもご迷惑なんじゃないかと思って…。」
「迷惑だと思っていたらこんな提案はしない。」
 それも確かにそうだと思った雪月は、黒蓮の世話になることにした。
(ただ甘えるだけにならないよう、私は黒蓮様のために何かできることを探そう。)
 雪月はあらためて黒蓮の方を向いて姿勢を正した。
「ではよろしくお願いします。黒蓮様。」
「ああ、よろしく。雪月。」
 そう言って初めて柔らかく微笑んだ黒蓮に、胸が高鳴った理由を雪月は知る由もなかった。

            *

「あっ!」
 鏡がない。それは母が亡くなる前に貰い受けたものだ。雪月にとってその鏡は宝物と等しく、常に肌身離さず持ち歩いていた。
(どうしよう。お母様の宝物でもあるのに…。)
 雪月の母親も自身の親から貰ったらしく、かなり古いが手入れがされていて、大切にされてきたのだということはすぐに見て取れる物だった。
「どうかしたか?」
 雪月が慌てて自分や周りを見回し始めるのを、黒蓮は不思議そうに見つめる。
「鏡が…。」
 山中で落としてしまったのだとしたら、もう見つからないだろう。
「あぁ、あれはやはり雪月のものだったのだな。お前が倒れていた側に落ちていた。土で汚れていたから洗って、今は乾かしてある。」
「よかった…。ありがとうございます。」
 雪月はその言葉を聞いて嬉しそうな笑顔を向けた。
「やっと笑ったな。やはりお前は笑顔がよく似合う。」
「っ??」
 また顔が熱くなるのを感じる。おそらく黒蓮は無自覚で言っているのだろうが、雪月には恥ずかしくなるようなことばかりだった。