「え、これって…」
 雪月は目の前に広げられたものに驚きを隠せなかった。大荷物の正体は白無垢だったのだ。よく見ると桜の文様が施されている。白い生地上でも春を最高に彩る花は、美しく映えていた。
 李花は、驚愕して固まっている雪月の着物を脱がせ、手際よく白無垢を着せていく。どこで教わったのかと疑問が浮かぶが、李花は満足そうな笑顔で雪月を見上げた。
「とてもお似合いですよ、雪月さん。」
「え、あ、でも…」
「黒蓮さまに見せてあげてください。きっと驚きますよ。」
 そう言うと李花は「じゃああたしもこれで。」と帰ろうとする。
「え、帰るのですか?」
「黒蓮さまがどんな反応だったか今度聞かせてくださいね!」
「あ、ちょっと…」
 相変わらず素早い李花は戸口の方へと駆けていった。流石に白無垢を着た状態で追いかけられないので、仕方なくその場で見送った。
(どうしよう、せっかく着させてもらったけど…)
 しかし、いつまでも恥ずかしさで固まっているわけにもいかない。ずっとこうしていても、黒蓮のほうが心配して見に来るだろう。
 庭を照らしている月は、今にも雲が隠してしまいそうだった。

            *