「なんだかいつもあたしの分まですみません。」
 李花は出来上がった料理を器に盛り付けながら謝った。
「気にしないでください。皆で食べたほうが美味しいですから。さ、食べましょうか。」
 雪月は筍や茸の炊き込み飯が入った釜を御膳に置きながらそう言った。実際、一緒に炊事ができて楽しい上、とても助かっていたのだ。

 しばらくは三人でたわいもない会話をしていたが、途中で雪月はなんとなく気になっていたことを口にした。
「最近、ここに訪れる方が全然いないのはどうしてでしょうか。皆さんが元気ならいいんですけど…。」
 以前は特に怪我などをしていなくても、屋敷に訪れる妖怪も少なくなかった。そのため雪月は、最近はやけに静かだと思っていたのだ。
「あーたぶん皆さん気を使って…」
「……。」
 単純に疑問を抱いていた雪月の言葉に李花は言葉を濁し、黒蓮は黙り込んでしまった。
(あれ、私なんかいけないこと言ってしまったかな…。)
「…やっぱりあたし邪魔ですよね。」
 一瞬視線を落とした後、李花は物凄い勢いで炊き込み飯を掻き込み、「ごちそうさまでした!」と言って立ち上がった。
「え、いきなりどうしたんですか⁉︎」
 雪月と黒蓮の制止も聞かず、李花は戸口へと向かった。勢いよく戸を開けると、目の前には氷織が立っていた。
「きゃあ!」
「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったようで…」
「大丈夫ですか?」
 雪月は驚いて尻餅をついた李花を助け起こした。氷織はというと大きな荷物を抱えたまま心配そうに李花を見つめている。
「氷織か。」
 後から来た黒蓮も氷織の持っている大荷物を不思議そうに眺めた。
「氷織さん、すごい荷物ですけどお持ちしましょうか?」
「これ、雪月さんに作ったものなので。少し重いですけど…」
「え、またこんなに頂いて…」
 受け取った荷物の中身は見えないが、どうやら感触的に衣類のようだ。中身は何かと尋ねようとすると、氷織は何やら李花に耳打ちをしている。二人は宴の際に知り合ったばかりだが、すぐに打ち解けたらしく仲良く話をしていた。話を聞き終わった李花は顔を輝かせながら雪月を見た。
「では私はこれで。」
 微笑みながらそういうと、氷織は会釈して帰っていこうとする。
「あ、待って…」
 呼び止めようとしたが、冷たい風とともに氷織の姿は消えていった。
「さあ、行きましょう雪月さん。」
「え、行くってどこに」
 李花は雪月の持っていた荷物をひょいと取り上げ、ついでに雪月の手を引いていく。そして振り返りながら黒蓮に声を掛けた。
「黒蓮さまは別の場所で待っていてください!」
「あ、ああ。わかった。」
 怪訝そうな顔をしながらも、黒蓮は縁側の方へ向かった。

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