黄耆(おうぎ)桂皮(けいひ)地黄(じおう)芍薬(しゃくやく)蒼朮(そうじゅつ)川芎(せんきゅう)人参(にんじん)甘草(かんぞう)……あと二つなんでしたっけ。」
当帰(とうき)茯苓(ぶくりょう)じゃないですか?」
 李花が唱えていたのは十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の配合生薬だ。十全大補湯には、「気」や「血」を補う補剤の代表的なもので、その名の通り十の生薬からなる。
 李花はあれから屋敷に通いつめ、薬学などを学んでいる。戸口の周りを掃除しながら、よくこうして二人で暗唱しているのだった。
「流石ですね雪月さんは。あたし全然覚えられません。」
「そんなことないですよ。私もまだまだですから。…そろそろ日も沈んできましたし、中に入りましょうか。」
「はい! 今日は何を作るのですか?」
「そうですね…あ、白菜の漬物を出しましょう。そろそろ美味しくなっていると思うので。」
 夕餉の献立を二人で話し合いながら厨へと向かう。李花は生薬などを覚えるのはあまり得意ではなかったが、炊事は得意なようでいつも雪月の手伝いをしていた。そしてその後は黒蓮を含め三人で食事をしている。

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