確かに叢雲は狂桜にもかなり興味を示していたし、すでに酒を飲んでいるようだが、全く酔っている様子はない。
「雪月さまも何か飲まれますか?」
「おい、俺らが勝手に飲ませたみたいになるだろ。」
「大丈夫ですよ。そんなに強くないものもありますから。」
 それ以上は何も言わなくなった長庚だったが、顔に「俺はどうなっても知らないからな。」と書いてあった。
 宴には様々な種類の酒が用意されていた。変わったものだと、野の花のお酒や、蜂蜜酒なんかもある。蜂蜜酒は水と蜂蜜を混ぜて放置しておくと自然にお酒になるらしい。
 試してみたくなった雪月だったが、黒蓮に言われたことを思い出したので止めることにした。
「せっかくですが、黒蓮様にあまり飲まないようにと言われているので遠慮しておきます。」
「それなら仕方ありませんね。さすがに僕も怒られそうですし。あ、そうだ僕たちから雪月さまに…」
「その前にちょっといいか?」
 叢雲が何かを取り出そうとするのを長庚は手で制し、真剣な眼差しを雪月に向けた。いつもと違う雰囲気に雪月も自然と緊張した面持ちで長庚の次の言葉を待った。
「雪月、俺は本当に祝っていいんだよな。あの時、眷属の話をしたことを後悔した。お前だって一人の人間なのに、重荷になるようなことを言ったんじゃないかって…。」
 長庚は己の言葉が雪月に影響を与えてしまったことを気にしていたのだ。そしてそれが雪月の選択肢を少なくしてしまったということも後になって自覚したのである。しかしこれは雪月が心から願った結果だ。きっかけがどうであれ、微塵も後悔などしていなかった。
「私は後悔なんてしていませんよ。聞きたいと言ったのも私ですし、黒蓮様を知るきっかけにもなりました。……本当は、あの方につり合うだけのものが私にあれば…と思っていました。」
「そんなのあの鬼神サマが…」
 長庚が続けようとした否定の言葉を、その場にいる誰もがわかっていた。
「はい。つり合うとか、隣に立つ資格とか、黒蓮様はそのようなことを気にする方ではありません。そう気づいた時、全然信じられていなかったんだなって自分に呆れてしまいました。」
「…そうか。なら良かった。」
「では改めて…」
 静かにしていた叢雲は、取り出しかけていたものを雪月の目の前で開けて見せた。