「黒蓮様、何と言って人の子にお気持ちを伝えたのですかぁ?」
「それは、雪月から…」
「えぇ⁉︎ ではまだ契りを交わしていないんですか?」
「意外と奥手なんですねぇ。」
「うるさいっ、俺は雪月を大切にしたいだけだ。」
「せっかくここ数日は皆屋敷に行かないようにしているのですから…」
 絶対に酔わないはずの黒蓮が少し酔い始めている。
 一部始終を見ていた三人のうち、叢雲と長庚は苦笑いをしたまま固まっている。雪月はというと楽しそうに眺めていた。
「黒蓮様も楽しそうですね。」
「あれどう見ても絡まれて迷惑してそうですけど…。」
「雪月って意外とそういうとこあるよな…。」
(やはり黒蓮様は多くの方々に慕われているんだなぁ。)
 叢雲と長庚は、今度は雪月を見て苦笑いした。
「…止めるどころか嬉しそうですもんね。」
「そうは言いつつも、叢雲だって止めに入らなかっただろ。」
「僕はあのお酒の味が知りたかったので。」
 叢雲は妖怪たちが黒蓮から取り上げた徳利を興味津々な様子で眺めた。どんなに飲んでも酔わないと言っていた黒蓮を酔わせた酒だ。雪月もどんなものなのか気になった。
「あれはどのようなお酒なのですか? 特別なお酒だと聞いていますけど…。」
「あれは「狂桜(きょうおう)」という酒呑童子さんの一族しか作れないもので、妖怪たちの間でも出回っていない貴重なお酒なんですよ。」
「鬼殺しって呼ばれる程の強い酒らしい。普通なら、一滴飲んだだけでも潰れるって聞いていたが…さすが鬼神サマだな。」
「酒呑童子さんはそんな貴重なものを下さったんですね。」
 薄紅色の液体で独特の香りがあり、一度飲めば忘れられない味をしている、など様々な噂があるが、誰も飲んだことがないので実際のところはわからないらしい。
「こんなに酒を用意するなら美味い飯も出してくれればいいのに。」
「長庚さんはお酒全く駄目ですもんねぇ。」
「えっ、そうなんですか?」
(てっきりお酒好きなのかと思ってた。)
「飲めなくて悪かったな。ってか雪月、俺が酒豪だと思ってたのか?」
「いや、そんなには…」
「多少は思ってたんだな。」
「飲みそうな顔してますもんね。」
 長庚は、小さい声で揶揄った叢雲をひと睨みした後、「本当の酒豪は此奴だけどな。」と言った。
「そんなにでもないですよ。」