「わぁ、たくさんの方々が来られるのですね。」
 宴は牙鋭がいた洞窟とは反対に少し山を下った広場のような場所で開かれていた。見知っている妖怪もいるが、会ったこともない妖怪たちも多くいる。皆楽しそうに談笑しているようだ。黒蓮が「年々規模が大きくなっている気がするな…。」と呟いていると、白い着物を纏った美しい女性――氷織が近づいてきた。
「着てくれたんですね!」
「はい。こんな素敵な着物、本当に頂いて良いのですか?」
「勿論です。お二人の為に作ったのですから。よくお似合いですよ。」
「ありがとうございます。」
「いつもありがとう。これも大切に着させてもらう。」
 氷織は嬉しそうに微笑んだ。
「さあ、今宵の主役はお二人ですから。私が独り占めするわけにはいきませんね。」
 氷織に促され広場の中心に行くと、宴の主催者が座っていた。氷織は「私はこれで。」と言って軽く会釈し去って行った。主催しているのは酒呑童子(しゅてんどうじ)という鬼らしい。
「よお黒蓮。久しぶりだな。で、そっちが雪月か。二人ともおめでとう。」
「ああ、ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「食いもんはないけど、酒は大量に持ってきたから楽しんでくれ。」
「俺は、酒は飲んでも何も変わらないと言っているのに。」
(私は飲んだことないけど、そういえば黒蓮様ってどれだけ飲んでも酔わないんだっけ…)
「そう言うと思って、お祝い用に特別な酒を持ってきたんだよ。」
「特別な酒?」
 酒呑童子は意味ありげに笑うと、どこからか徳利を取り出した。
「これは我が鬼の一族に代々伝わる秘伝の手法で作られた酒だ。特別に持ってきたから受け取ってくれ。」
「…後で頂こう。」
 流石に断るのも気が引けたのか、黒蓮は素直に徳利を受け取った。
「雪月さーん!」
 声に振り向くと、李花が手を振っていた。
「俺は個別に挨拶したい妖怪がいるから、雪月も好きなように見て回るといい。あ、…あまり酒は飲むなよ。」
「はい。」
(私がお酒飲んだことがないから心配してくれたのかな。)