「そうか…辛いことを話させたな。すまない。」
そういうと黒蓮は頭を下げた。
「そ、そんな。黒蓮様が謝られるようなことではありません!」
神である黒蓮に頭を下げられ慌てる雪月だったが、「いや、そうでもないんだ。」と言って黒蓮は頭を上げ、静かに語り出した。
「俺は、現に天候を操る力を持っている。それを人間のために使ったことはあるが、もう使う気はない。望みを叶えてしまえば、それにすがるようになってしまう。それでは人間のためにならないだろう。だが、毎度捧げられる生贄は意味がないことを、俺が村の者に知らしめておけばよかったんだ。そうすればお前もこんな目に合わなくて済んだだろう。」
責任を感じている黒蓮にかける言葉など思いつかなかった。そもそも天地を操ることのできる神が存在したことにも驚きである。
(何が正しかったのかなんて私にはわからない。)
なんの力にもなれないことが、ひどくもどかしかった。
すると、黒蓮は俯いていた雪月の顔を手で包み込むようにして己の視線と合わせた。
「…だが、お前は生きることを選んでくれてよかった。」
その言葉を聞いた瞬間、雪月の瞳からは雫がぽろぽろとひとりでにこぼれ落ちた。
いきなり涙を流し出した雪月に、黒蓮は狼狽える。
「悪い。俺は何か気に触るようなことを…」
「違い、ます…っ。」
雪月はなんとか黒蓮のせいではないことを伝えるべく、首を左右に振りながら答えた。
「嬉し、くて…。本当は生贄になった方が、良かったんじゃ、ないかと…。私が、ただ我儘なだけなんじゃ、ないかって…っ。」
止まることのない涙は、しだいに布団を濡らしていく。「そんなことはない。」と、黒蓮は優しく雪月の背中をさすりつつ抱きしめる。
「生を望むことは、決して悪でも罪でもない。自分を犠牲にするのは、確かに人間の持つ美徳かもしれない。でもそれこそ同時に罪でもあるんじゃないか? 自分が死ぬことで誰かが幸せになるなんて思わなくていい。」
低く、響くような声には優しさが滲み出ていた
(暖かい…。こんなの、いつぶりだろう。)
母親が帰らぬ人となってから、ずっと一人で暮らしてきた雪月にとって、他者の温もりとは想像以上に染み渡るものだった。
徐々に嗚咽は啼泣へと変わっていく。
「そうだ。我慢せずにもっと泣け。涙は心が壊れていない証拠だ。恥じることではない。」
そういうと黒蓮は頭を下げた。
「そ、そんな。黒蓮様が謝られるようなことではありません!」
神である黒蓮に頭を下げられ慌てる雪月だったが、「いや、そうでもないんだ。」と言って黒蓮は頭を上げ、静かに語り出した。
「俺は、現に天候を操る力を持っている。それを人間のために使ったことはあるが、もう使う気はない。望みを叶えてしまえば、それにすがるようになってしまう。それでは人間のためにならないだろう。だが、毎度捧げられる生贄は意味がないことを、俺が村の者に知らしめておけばよかったんだ。そうすればお前もこんな目に合わなくて済んだだろう。」
責任を感じている黒蓮にかける言葉など思いつかなかった。そもそも天地を操ることのできる神が存在したことにも驚きである。
(何が正しかったのかなんて私にはわからない。)
なんの力にもなれないことが、ひどくもどかしかった。
すると、黒蓮は俯いていた雪月の顔を手で包み込むようにして己の視線と合わせた。
「…だが、お前は生きることを選んでくれてよかった。」
その言葉を聞いた瞬間、雪月の瞳からは雫がぽろぽろとひとりでにこぼれ落ちた。
いきなり涙を流し出した雪月に、黒蓮は狼狽える。
「悪い。俺は何か気に触るようなことを…」
「違い、ます…っ。」
雪月はなんとか黒蓮のせいではないことを伝えるべく、首を左右に振りながら答えた。
「嬉し、くて…。本当は生贄になった方が、良かったんじゃ、ないかと…。私が、ただ我儘なだけなんじゃ、ないかって…っ。」
止まることのない涙は、しだいに布団を濡らしていく。「そんなことはない。」と、黒蓮は優しく雪月の背中をさすりつつ抱きしめる。
「生を望むことは、決して悪でも罪でもない。自分を犠牲にするのは、確かに人間の持つ美徳かもしれない。でもそれこそ同時に罪でもあるんじゃないか? 自分が死ぬことで誰かが幸せになるなんて思わなくていい。」
低く、響くような声には優しさが滲み出ていた
(暖かい…。こんなの、いつぶりだろう。)
母親が帰らぬ人となってから、ずっと一人で暮らしてきた雪月にとって、他者の温もりとは想像以上に染み渡るものだった。
徐々に嗚咽は啼泣へと変わっていく。
「そうだ。我慢せずにもっと泣け。涙は心が壊れていない証拠だ。恥じることではない。」
