「雪月さんを連れ出さなければ、あの人たちを喰らうと言われたんです…!」
「なるほど…。牙鋭たちは釁隙に入れないから李花にやらせたということだな。」
「そんなことが…。」
(颪さんが洞窟に私を連れてくるように仕向けたと言っていたのはそういうことだったんだ。)
「ただの猫だったあたしが言うのもなんですが…、人の一生は短いです。でも一人で生きるには長すぎる。だから人は互いに寄り添い合うと思うんです。それを簡単に壊されたくなかった…!」
 李花は悔しそうに歯を食いしばっているが、その大きな瞳からは大粒の涙が溢れている。
「…でも、雪月さんも人間です。あたしは命の選別をしちゃったようなものです…っ。本当にごめんなさい…‼︎」
「私は大丈夫ですし…、話してくれてありがとうございます。」
 雪月は李花の背中をさすりながら少し屈んで視線を合わせた。
「皆怪我だけで済んだって言ったらあれですが…。その人たちもきっと無事ですよ。」
 颪のことだ。李花の近辺を探って脅しただけで、その人間たちに手を出しているとは思えない。
 黒蓮も李花に視線を合わせるために屈むと、安心させるように頭にぽんと手を置いた。
「何かを守るためには、何かを犠牲にしなければならないときがある。…だが、判断に困ったときは相談しろ。俺の立場はそのためにもあるんだ。」
 黒蓮はきまりが悪そうに「まぁ今回のこともあるし、信用できないかもしれないが…。」と付け加えた。
「そんなことないです! すみませんでした。でも、ありがとうございます…っ。」
 李花は涙を拭いながら何度も礼を言った後、大切な人たちの様子を見てくると言って去って行った。

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