雪月にはそれ以降の記憶が曖昧だった。鳥居を抜けたら美しい世界が広がっていたような気はするが、現実だったのかもわからない。今では、身体が限界に達し、幻を見ていたのかもしれないと思っているのだ。ここが、雪月が記憶している景色の場所と関係するのか、全く異なる場所であるかさえ、今の雪月には判断のしようがなかった。
「そうだな。ここは釁隙。もう勘付いていると思うが、お前のような人間が暮らしている場所ではない。もう少し分かりやすく言うのであれば、現世と幽世の狭間の世界と言ったところか。」
「なるほど…。」
相づちを打ったものの、全くと言っていいほど頭がついていけていなかった。どのようなところか知れたところで、なぜ自分がそんな場所にいるのか、そしてこれからどうすればいいのかという答えは出ないことに今更ながら気づく。
だが同時に、黒蓮のことを知りたいと思った。
「あの、黒蓮様は…、神様なのですか?」
鬼神という言葉が聞きなれなかった雪月は、まず黒蓮の存在について訪ねることにした。
「そういうことになるな。この肌の紋様も神である証の一つだ。まぁ、俺は元々現世で生まれた鬼だが。」
「鬼⁉︎」
鬼という言葉に驚きを隠せない雪月は目を大きく見開いた。
「そうだ。そもそも人ならざるものとは、人間と比べて何者かがあやふやなんだ。俺のように、鬼に生まれながら神になった者もいれば、神でありながら鬼に堕ちた者も存在する。それこそ、人の子が鬼になった者までいるくらいだしな。」
その話に雪月は驚愕した。神は尊き者。鬼は邪しき者。多くの人間がそう認識しているはずだ。二つの相反するものが実は似たようなものだということか。だが神である黒蓮が話すのだからそうなのだろうと納得した。
「俺からも聞いていいか?」
「はい。」
黒蓮の真っ直ぐに見つめてくる視線に戸惑いながらも雪月は頷いた。
「お前はなんでこんな山奥に足を踏み入れた? 多くの人間はこの辺りの山々を恐れていたはずだ。」
黒蓮が不思議に思うのも自然なことだった。
山。それは人の住まない領域。すなわち神の領域。
村人たちが山に近づかないのは、獣や妖怪が多いだけではなく、神を信じているからでもあった。
雪月は続く水害のことと、それを鎮めるための生贄が身寄りのない自分であったことを説明した。
「そうだな。ここは釁隙。もう勘付いていると思うが、お前のような人間が暮らしている場所ではない。もう少し分かりやすく言うのであれば、現世と幽世の狭間の世界と言ったところか。」
「なるほど…。」
相づちを打ったものの、全くと言っていいほど頭がついていけていなかった。どのようなところか知れたところで、なぜ自分がそんな場所にいるのか、そしてこれからどうすればいいのかという答えは出ないことに今更ながら気づく。
だが同時に、黒蓮のことを知りたいと思った。
「あの、黒蓮様は…、神様なのですか?」
鬼神という言葉が聞きなれなかった雪月は、まず黒蓮の存在について訪ねることにした。
「そういうことになるな。この肌の紋様も神である証の一つだ。まぁ、俺は元々現世で生まれた鬼だが。」
「鬼⁉︎」
鬼という言葉に驚きを隠せない雪月は目を大きく見開いた。
「そうだ。そもそも人ならざるものとは、人間と比べて何者かがあやふやなんだ。俺のように、鬼に生まれながら神になった者もいれば、神でありながら鬼に堕ちた者も存在する。それこそ、人の子が鬼になった者までいるくらいだしな。」
その話に雪月は驚愕した。神は尊き者。鬼は邪しき者。多くの人間がそう認識しているはずだ。二つの相反するものが実は似たようなものだということか。だが神である黒蓮が話すのだからそうなのだろうと納得した。
「俺からも聞いていいか?」
「はい。」
黒蓮の真っ直ぐに見つめてくる視線に戸惑いながらも雪月は頷いた。
「お前はなんでこんな山奥に足を踏み入れた? 多くの人間はこの辺りの山々を恐れていたはずだ。」
黒蓮が不思議に思うのも自然なことだった。
山。それは人の住まない領域。すなわち神の領域。
村人たちが山に近づかないのは、獣や妖怪が多いだけではなく、神を信じているからでもあった。
雪月は続く水害のことと、それを鎮めるための生贄が身寄りのない自分であったことを説明した。
