「なんだか雲行きが怪しくなってきましたね。」
 雪月は洞窟から外を眺めた。月は雲に隠れ、風も強くなってきている。
「そうですね…。」
 颪は何か思うところがあるのか、黙ったまま空を睨みつけていた。
「そういえば牙鋭さんはどこに向かったのですか?」
「頃合いを見計らってこちらから仕掛けるつもりだったので、黒蓮様の動向を探りに行っています。しかし遅いですね。一度戻って来るとおっしゃっていたのですが…。」
 包み隠さず計画を教えてくれることにも驚いたが、声からは牙鋭を心配していることがわかる。
「何かあったんでしょうか…。」
「わかりません。ですが、もしかしたら鉢合わせたのかもしれません。」
 雪月はこの場から動けないので、黒蓮が来てくれるのを信じて待つしかないが、一番厄介なのは二人が自分の知らないところで争ってしまうことだ。怪我どころでは済まないかもしれない。
 颪にお願いして、二人を探しに行くことも考えたが、下手に動くとすれ違いになってしまうかもしれない。そして何より颪に申し訳なくなってしまう。
「牙鋭さんは具体的にどうするつもりだったのですか?」
「本来なら襲撃した上で、雪月様のことを持ち掛けるおつもりです。しかし鉢合わせているとすると…」
「どうなるかわからない、と…。」
「牙鋭様はとてもお強いです。おそらくこの辺りのどの方よりも。ですが鬼神である黒蓮様の力と比べたらわかりません。そのあたりは自分も存じ上げないので…。」
 不測の事態になりつつあることに、二人して落ち着かなくなってきた頃、雲に覆われた空が一瞬明るくなった。数秒としないうちに大地を轟かすような雷鳴が聞こえた。
「かなり近いですね。」
「何か嫌な予感がします。」
「同感ですね。」
 洞窟から外に顔を覗かせると、少し離れたところのみやたら雲が厚く、雨が降っている。雷もそこでだけ起こっているようだ。
「…明らかに自然現象ではありませんね。自分は確認して来るので雪月様はここにいてください。」
「…わかりました。」
 颪は蜘蛛の八本の足を器用に使い、素早く去って行った。

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