正直に答えた雪月に颪は苦笑しながら話を続けた。
「私は元人間です。人間だった頃の記憶はほぼ無いですが、武人であったことは覚えています。」
「そうだったんですか?」
雪月は以前黒蓮から、人が鬼になったということを聞いたのを思い出した。しかし人から異形のものになるのは、そう頻繁に起こる事なのだろうか。
「自分は何かから逃げていて、気が付いたら崖の下にいました。足はもう使い物にならなくて…死を覚悟しました。でも諦め切れませんでした。そこに主が現れたのです。それでただ一言、「生きたいか?」と。」
もう声すら出なかった颪は小さく頷いただけだったが、それを見た牙鋭は満足そうに笑ったという。
「そして、無くなりかけの魂を別の魂に結びつけたと言われました。それがこの蜘蛛です。土蜘蛛というらしいのですが、本来は人を喰らう巨大な蜘蛛だそうで。先程葉が枯れたのもその為です。自分自身は喰べたことはありませんが…記憶にあるのは物凄い激痛だったので、おそらく身体をいじられたんだと思います。」
さらっと言って退ける颪だが、その内容は凄いどころでは済まされないものだった。しかし、死ぬことに比べれば苦ではなかったという。
「颪さんにとって牙鋭さんはとても大切な方なのですね。」
「はい。…あなた方に迷惑をかけているのも承知です。でも自分は主を裏切ることなどできません。」
それはここから逃がしてはやれないという暗示だった。
「分かっています。牙鋭さんが戻ってきたら話をしてみます。」
「本当に雪月様は優しくてお強い。見習いたいものです。」
「見習いたいだなんてそんな…」
面映ゆい思いをどうにかするべく、雪月は話を変えることにした。
「…そういえば、牙鋭さんはこの地に何か思い入れあるのでしょうか。」
単純に黒蓮のことが気に食わないのなら、黒蓮の影響が及ばない場所へ行くなどして物理的に距離をとればよい話だ。
「牙鋭様は現世生まれなので、幽世よりこちらのほうが慣れているとおっしゃっていましたし、なんだかんだいって生まれ育ったこの地がお好きなんだと思います。」
「颪さんは牙鋭さんとよく話されるのですか?」
「そうですね。妖怪のことも、神のことも、この地のことも。酒を片手に昔話を聞かせてくれます。自分は人間だった頃の記憶が曖昧なので、こちらから話すことはありませんが…。」
「私は元人間です。人間だった頃の記憶はほぼ無いですが、武人であったことは覚えています。」
「そうだったんですか?」
雪月は以前黒蓮から、人が鬼になったということを聞いたのを思い出した。しかし人から異形のものになるのは、そう頻繁に起こる事なのだろうか。
「自分は何かから逃げていて、気が付いたら崖の下にいました。足はもう使い物にならなくて…死を覚悟しました。でも諦め切れませんでした。そこに主が現れたのです。それでただ一言、「生きたいか?」と。」
もう声すら出なかった颪は小さく頷いただけだったが、それを見た牙鋭は満足そうに笑ったという。
「そして、無くなりかけの魂を別の魂に結びつけたと言われました。それがこの蜘蛛です。土蜘蛛というらしいのですが、本来は人を喰らう巨大な蜘蛛だそうで。先程葉が枯れたのもその為です。自分自身は喰べたことはありませんが…記憶にあるのは物凄い激痛だったので、おそらく身体をいじられたんだと思います。」
さらっと言って退ける颪だが、その内容は凄いどころでは済まされないものだった。しかし、死ぬことに比べれば苦ではなかったという。
「颪さんにとって牙鋭さんはとても大切な方なのですね。」
「はい。…あなた方に迷惑をかけているのも承知です。でも自分は主を裏切ることなどできません。」
それはここから逃がしてはやれないという暗示だった。
「分かっています。牙鋭さんが戻ってきたら話をしてみます。」
「本当に雪月様は優しくてお強い。見習いたいものです。」
「見習いたいだなんてそんな…」
面映ゆい思いをどうにかするべく、雪月は話を変えることにした。
「…そういえば、牙鋭さんはこの地に何か思い入れあるのでしょうか。」
単純に黒蓮のことが気に食わないのなら、黒蓮の影響が及ばない場所へ行くなどして物理的に距離をとればよい話だ。
「牙鋭様は現世生まれなので、幽世よりこちらのほうが慣れているとおっしゃっていましたし、なんだかんだいって生まれ育ったこの地がお好きなんだと思います。」
「颪さんは牙鋭さんとよく話されるのですか?」
「そうですね。妖怪のことも、神のことも、この地のことも。酒を片手に昔話を聞かせてくれます。自分は人間だった頃の記憶が曖昧なので、こちらから話すことはありませんが…。」