白き月と黒き花は永久を知る

 洞窟の中は最初寒く感じたが、颪が何処かから持ってきた枯れ葉に火を灯したおかげで、寒さはなくなり辺りも明るくなっていた。雪月は猫又の方を窺うが、まだ意識を取り戻してはいないらしく、先程と同じ体勢のまま倒れている。
(李花さん…大丈夫かな。)
 手を動かしてみるが、巻き付いている糸は食い込むばかりで外れそうにない。颪はずっと雪月に背を向けていて様子が窺えないが、雪月は駄目元で拘束を解くようにお願いしてみることにした。
「あの…颪さん。李花さんの手当てをしたいので拘束を解いてもらえませんか? もちろん、逃げたりなんてしません。」
「……分かりました。」
 意外にもあっさりと拘束を解いてくれたことに驚いたが、雪月は礼を言って李花の元へ駆け寄った。頭部を確認してみると瘤ができているものの幸い出血はしておらず、体も特に目立った外傷は見当たらなかった。水平に寝かし、持ってきた風呂敷の中から布を取り出す。先程は暗くて気づかなかったが、洞窟の奥には水が流れていた。手を入れてみるとやはりよく冷えている。布を濡らし瘤に当てて固定した。
(痙攣もしてないし、呼吸も異常なし。しばらく様子見かな。)
 余った布を風呂敷に包んでいると、近くに転がっている石に血がついているのを見つけた。しかし自分はどこも出血していないし、李花も出血していなかった。
「あ…、やはり颪さん怪我してらっしゃいますよね。手当てさせてください。」
「え、いえ、自分はいいです。」
 颪のさらしの間から覗く目には、動揺の色が表れていた。
「ですが…」
「自分はまだ体が安定していないので完全な人形をとれません。恐ろしいでしょう? 近付かないほうが…」
「関係ありません。」
 雪月は見た目の良し悪しよりも、もっと大切なことがあることを知っている。しかし近付こうとする雪月から逃げるように、颪は後退りした。
「それに、体が安定していないのなら尚更手当てしたほうが良いです。」
「あなたはお人好し過ぎます。ここに連れてくるように仕向けたのも、黒蓮様を屋敷から遠ざける為に妖怪たちに手を出していたのも自分なんですよ。」
「それは手当てをしない理由にはなりません。」