だがこのようなことをする理由がわからない。土蜘蛛は凶暴だが、妖怪には手を出したことなどないのだ。そして怪我をした妖怪は皆、重症にはなっていない。答えは出ないが、いつまでも帰らないわけにもいかないので、黒蓮は屋敷に向かって歩き出した。
「―――ぃ。」
「ん?」
誰かの声に足を止めると、今度は背後からはっきりと声が聞こえた。
「鬼神!」
「長庚?」
振り返ると、前回会った時とは比べ物にならないくらいの傷を負った長庚が、血を滴らせながら木に手をついて立っていた。
「何があった?」
「俺はいいから、屋敷に戻れ。」
「どういう意味だ?」
「さっきこの辺りを嗅ぎ回っていた奴を、見つけたんだ。問いただしたら、何か、企んでいるようだった。」
長庚は息を切らしながらも早口でそう言った。
「情けない話だが、今そいつから逃げてきたところだ…。おそらく、雪月が目的だ。」
黒蓮は長庚の話を聞いて、今までの疑問の関連性が深まった気がした。黒蓮を屋敷から遠ざけるために、妖怪たちに怪我をさせていたのかもしれない。長庚は痛みで崩れ落ちそうなのを必死で堪えながら黒蓮を促す。
「早く行け。雪月が危ないぞ!」
「…すまない。」
黒蓮は一瞬考えた後、止血作用のある葉と布を長庚に渡すと、獣の姿になり疾風の如く夜の山を駆けていった。
黒蓮は急いで屋敷へと戻ってきた。戸口を開けると行灯に火はともっているが、人気がない。
「雪月? いるなら返事してくれ。」
厨、診察室、薬房と確認するが、雪月の姿は何処にも見当たらない。庭に出ようとすると、雪月の部屋からカタカタと音がした。聞き覚えのある音である。確認してみると案の定、音の正体は雪月の鏡だった。湯浴みをするときと、就寝するとき以外は常に懐にしまっている雪月が鏡を置いて出かけるなどあり得ない。非常事態であることをすぐさま察し、黒蓮は鏡を手に取った。
「付喪神! 雪月に何があった?」
雪月の鏡に憑いた付喪神は、カタカタと震えながら黒蓮に意思を伝えた。
「その猫又が連れて行ったと…。わかった。」
黒蓮は庭に出ると如意の力を使い、森の動物たちから雪月が向かった場所を聞きながら走り出す。
光り輝いていた白い月は、雲に覆われ始めていた。
*
「―――ぃ。」
「ん?」
誰かの声に足を止めると、今度は背後からはっきりと声が聞こえた。
「鬼神!」
「長庚?」
振り返ると、前回会った時とは比べ物にならないくらいの傷を負った長庚が、血を滴らせながら木に手をついて立っていた。
「何があった?」
「俺はいいから、屋敷に戻れ。」
「どういう意味だ?」
「さっきこの辺りを嗅ぎ回っていた奴を、見つけたんだ。問いただしたら、何か、企んでいるようだった。」
長庚は息を切らしながらも早口でそう言った。
「情けない話だが、今そいつから逃げてきたところだ…。おそらく、雪月が目的だ。」
黒蓮は長庚の話を聞いて、今までの疑問の関連性が深まった気がした。黒蓮を屋敷から遠ざけるために、妖怪たちに怪我をさせていたのかもしれない。長庚は痛みで崩れ落ちそうなのを必死で堪えながら黒蓮を促す。
「早く行け。雪月が危ないぞ!」
「…すまない。」
黒蓮は一瞬考えた後、止血作用のある葉と布を長庚に渡すと、獣の姿になり疾風の如く夜の山を駆けていった。
黒蓮は急いで屋敷へと戻ってきた。戸口を開けると行灯に火はともっているが、人気がない。
「雪月? いるなら返事してくれ。」
厨、診察室、薬房と確認するが、雪月の姿は何処にも見当たらない。庭に出ようとすると、雪月の部屋からカタカタと音がした。聞き覚えのある音である。確認してみると案の定、音の正体は雪月の鏡だった。湯浴みをするときと、就寝するとき以外は常に懐にしまっている雪月が鏡を置いて出かけるなどあり得ない。非常事態であることをすぐさま察し、黒蓮は鏡を手に取った。
「付喪神! 雪月に何があった?」
雪月の鏡に憑いた付喪神は、カタカタと震えながら黒蓮に意思を伝えた。
「その猫又が連れて行ったと…。わかった。」
黒蓮は庭に出ると如意の力を使い、森の動物たちから雪月が向かった場所を聞きながら走り出す。
光り輝いていた白い月は、雲に覆われ始めていた。
*
