白き月と黒き花は永久を知る

「ありがとうございます。」
「ああ。気をつけろよ。」
 妖怪の傷の手当てを終えた黒蓮は、屋敷へと戻るべく応急処置用の道具を片付け始めると、再び鴉が鳴いた。
「何? またか。今日はいったいどれだけの妖怪が怪我を負っているんだ。」
 また妖怪が怪我をしているのを見つけた、と鴉が伝えたのである。鴉に案内を任せ、早く移動するために黒蓮は獣の姿に変わると走り出した。

「この怪我はどうしたんだ?」
「森の中を走ってたら、いきなり何かに引っかかってしまって、その反動であそこから落ちたんです。」
 そう言うと狸の妖怪は頭上を見上げた。
「なるほど。この辺りはあまり来ないのか?」
「いいえ。よく通っているのですが…ご迷惑をかけてしまい申し訳ありません。」
「いや、傷が深くなくてよかった。止血はしたが、数日しても痛みが引かないようなら俺の屋敷に来い。」
「はい、ありがとうございます。」
 狸を見送った後、黒蓮はその場に佇んだまま、思考を巡らせた。妖怪にも夜目があまり効かない者もいるが、人間よりは見えているはずなのだ。しかし、最近転倒事故が多発しており、全員口を揃えて何かに引っかかったという。
 気になった黒蓮は、狸が躓いたと言う場所を確認してみることにした。
「これは…蜘蛛の糸?」
 透明で分かりづらいが、木々の間から差す月明かりに照らされてキラキラと輝いている。しかしその強靭さに、ただの蜘蛛ではないことに察しがついた。
「土蜘蛛……何でこんなところに…。」
 土蜘蛛とは人を喰らう巨大な蜘蛛だ。普段は洞窟や岩窟(いわむろ)におり、森の中を徘徊することはほとんどない。あるとすれば暗くなってからだ。全て土蜘蛛の仕業とすれば、日が落ちてから怪我をする妖怪が多いのはこのためかもしれない。