「…雪月。」
「はい。」
「他にも何か長庚に言われただろう。」
「え…。」
 正直雪月は、自分が話に何度も出てきていた山伏の子孫であったことや、眷属の話をされてからずっと落ち着かなかったのだ。表情や態度にそれが表れていたのだろう。嘘が苦手な雪月の不自然な様子を、黒蓮が見過ごすわけがなかった。
(どうしよう。でも隠しておいてもしょうがないし…)
 雪月は俯きながらも口を開いた。
「長庚さんからは、以前ここに住んでいた方の子孫が私であることと、眷属の話を聞きました。」
「…そうか。」
「でも私から聞いたんです。自分に関係することだと思ったら気になって…。やはり知らない方が良かったですか?」
「いや、そういうわけではないが、話したらお前を不安にさせてしまうと思った。」
「確かに、私はこれからどうしたら良いのかと悩んでいますが…。」
 時が経とうと流石に村には戻れないが、かといって他に当てがあるわけでもない。天涯孤独というのはどうしても変えられない事実だった。
「俺から追い出すようなことは絶対にしない。好きなだけここにいると良い。」
「ですが…」
 言葉を続けようとするのを遮るように、黒蓮は雪月の顔を手で包み込んだ。あの時と同じように、己の漆黒の瞳と合わせる。
「お前は人間だ。自分のことを一番に考えろ。……と言っても、雪月は優しいからな。このことを話したら影響されてしまうと思った。その山伏がどうなったかも聞いたんだろう?」
「…はい。眷属にならなかった薄情者だと思われたままだったと…。でも私はそうは思えなくて。その、黒蓮様はその方をどう思われていたのですか?」
 答えを聞くのは怖いが、ここまできたらもういっそ全てを知りたいと思った雪月は、覚悟を決めて黒蓮にそう問いかけた。
「…薄情者などと、俺は思っていない。」
 一呼吸置いた後、はっきりとそう言った黒蓮の言葉に雪月は心から安堵した。
「確かに、周りの妖怪たちからはあまりよく思われていなかったようだが……そうだな、あの時のことを少し話そう。」