「ああ。長庚は牙鋭が何か企んでいることを察したんだろうな。赤加賀智は鬼の赤い瞳のことを指すことがある。鬼灯と言わなかったのはそういうことだろう。」
「何が目的なんでしょう…。」
「わからない。だが俺に反発している者が何かしら動きだしたということだろう。絶対に釁隙から出るなよ。」
「わかりました。」
「…巻き込む形になってしまってすまない。だが雪月に危害は加えさせないと約束する。」
「はい!」
 雪月はもちろん黒蓮のことを信頼しているので、そこまでの不安や恐怖はなく笑顔で返事をしたが、黒蓮には不安の色が表れたままだった。
(やはり釁隙には入って来られないみたいだし大丈夫だよね……あれ?)
 結界のすぐ外にある木に細く光るものが見える。よく見ると、それは蜘蛛の糸のようである。雪月は同じような糸が長庚の手足にも絡み付いていたことを思い出したが、蜘蛛なんて何処にでも存在する。特に気にすることでもないと、雪月は深く考えることはしなかった。

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