「五百年くらい前のことだから、伝わってなくて当然だけどな。似ているって言ったのはそういう意味だ。その白い肌も顔もここまでそっくりだとは思わなかったけど。」
「え、…え?」
 雪月は理解が追いつかず固まってしまった。今まで話に出てきていた男から血筋を引いていたのが自身であるなど、思いもしなかったのだ。だがそう考えると、焔が別れ際に雪月に残した言葉にも説明がつくような気がした。
「驚くのは当然だ。けど、一番複雑なのは鬼神サマだろうな。自分の元から離れていった人間の末裔がまた目の前に現れたんだから。」
 その通りである。黒蓮の目には、雪月はどう映っていたのだろうか。
(私はこの話を聞いた上でどうしたら良いのだろう。私も妖怪たちから実は薄情者だと思われてるのかな…。)
「まぁそんな急いで物事を決めなくても大丈夫だろ。ただ、命以上に儚いものがあることを忘れない方がいい。……そうだ、俺はあることを伝えに来たんだ。」
「あること、ですか?」
 混乱しながらも長庚の方を見ると、長庚もその黄金色の瞳で真っ直ぐと雪月を見据えた。
赤加賀智(あかがち)に気をつけろ。」
 長庚は雪月に顔を寄せると声を潜める。
「疑うことは簡単だ。普通は信じることのほうが難しい。だが雪月、お前さんは違うみたいだからな。」
「?」
 雪月は言葉の意味が分からず、首を傾げた。
「長庚!」
 比較的大きな声に、雪月はビクッと体を震わせた。ちょうど黒蓮が戻ってきたのである。
「はいはい、何もしてねーって。鬼神サマの女に手出す奴なんてそうそういねぇよ。」
 そう言いながら長庚は立ち上がり雪月から距離をとったが、黒蓮は顔を(しか)めたままだった。
「ま、俺の用は済んだしそろそろ帰るわ。じゃあな雪月。ご馳走さま。」
 長庚は黒蓮の眉間の皺がさらに深まったことには気づかないふりをして、獣の姿になり去って行った。