(聞いていいのかな…。でも自分に関係することだと尚更気になる…。)
「…はい。」
 少しためらったものの、一度出てきた探究心はなかなか収まることを知らず、雪月は意を決して頷いた。
「昔もここに、人間が暮らしていたことは知っているか?」
「山伏の人と暮らしていたと聞いたことがあります。」
「ああ、その男だ。その男は鬼神サマとよく言い合いをしていたが、なんだかんだいって仲が良かった。」
 雪月は注意深く長庚の話に耳を傾ける。
「人間にとってはそこそこ長い時間、この屋敷で一緒に暮らしていた。その後の話は?」
「聞いていません。」
「その後、その男は屋敷を出て都に行った。俺も他の奴らもあの男は眷属になると思ってたんだ。眷属は人間や獣であることは問わない。だが相性がある。あの二人は相性が良かった。鬼神サマはどう思ってたかは知らねぇけど、男が屋敷を出て行ってからひどく寂しそうにしてたのは誰が見てもわかる程だった。」
(やはり、その方は黒蓮様にとってとても大切な方だったんだ。)
「この地を治める神に眷属がいれば、その神は安定した大きな力を持つことができる。それは山やそこに住む俺たちみたいなのにとっても良いことなんだ。男は長い間ここで世話になっていたから、眷属になることが鬼神サマへの最大の恩返しになると、周りの奴らは皆思っていた。」
「でもその方は眷属にはならなかったのですね。」
「そうだ。だからその男は鬼神サマを慕っていた妖怪たちから、薄情な奴だと思われたまま死んでいった。」
「それは、とても悲しいことですが…、その方にも何か考えがあったのだと思います。」
「そうだろうな。人間が俺たちのことを理解できないように、俺たちも人間の感覚はわからない。」
 雪月と長庚の間には、しばらく沈黙が流れた。人間とそうでない者は結局のところ相容れない。これが変えられない現実なのだろうか。
「…その方と、今の私の立場が似ているということですか?」
 雪月は一番の疑問がはっきりと解決していないことを思い出し、そう長庚に問いかけた。
「まぁそれもあるが、大事なことを言うのを忘れてたな。お前さんはその男の子孫だよ。」
「えっ⁉︎」
 雪月は驚きのあまり口を開けたまま長庚を見つめた。