(ああ、私死んじゃったんだ。ごめんなさいお母様。約束守れなくて…)


―――――「大丈夫か⁉︎」
 誰かがこちらへ駆け寄って来るような気がした。

            *

「っ…?」
(あれ? 私どうしたんだっけ。)
 ぼやけていた目が次第に鮮明になっていく。
「あぁ、起きたのか。気分はどうだ?」
 視界に男の人が映る。
「⁉︎」
 雪月は慌てて飛び起きた。
「痛っ。」
 足に激痛が走る。山を登っている最中に転倒した時のものだろう。
「混乱しているな。まあ無理もない。」
 その男は落ち着けるように雪月の背に手を回し、ゆっくりと仰向けに寝かした。
「一応、応急手当は済ましている。しかしまだ動かさない方がいいだろう。」
「はい…。ありがとうございます。」
「いろいろ聞きたいことはあると思うが、その前に化膿止めの薬湯を持って来るから少し待っていてくれ。」
 そう言って男は去っていった。
 今のはいったい誰だろうと思いつつ、仰向けのまま軽く辺りを見回す。
 広くはないが、手入れの行き届いているきれいな和室だった。
 次に少し布団をめくり、自分の体を見てみると、白地に紫色のしだれ藤の浴衣を着ていた。もともと着ていたものと違うので、誰かが着替えさせてくれたのだろう。
(ここにあの男の人以外に人がいないとしたら…)
 雪月は顔が熱くなるのを感じたが、それ以上は考えないことにした。夜通し山の中を歩き続け、転んで怪我をしていたのだから善意で着替えさせてくれたに違いない。それに加え、怪我の手当てまで済ましてくれていたのだ。
(あの人が戻ってきたら、改めてお礼を言わなければ…。)
 誰だかはわからないし、ここも初めて来る場所なはずなのに恐怖はなく、何故か安心感さえあった。
 言われた通りにおとなしく待っていると、誰かがこちらに来る足音がした。
「入るぞ。」
 そう言ってから、さっきの男は障子を静かに開け、湯飲みがのったお盆を持って枕元に腰を落とした。
「身体起こせるか?」
 男は、雪月が起き上がるのを軽く手を添え補助しつつ、顔色を伺った。
「顔色は悪くなさそうだが、他に痛むところや気になるところはないか?」
「大丈夫です。」
 質問に答えたものの、雪月は男の姿に見とれてしまっていた。
(なんて美しい方なんだろう。)