「お待たせしました。こちらは化膿止めの薬湯です。」
「ありがとう、気が利くな。」
 長庚は早速渡された薬湯を飲みながら、匙を手に取った。粥を適量掬い、口へと運ぶ。
「おお! 美味い。」
「お口に合ってよかったです。」
 今までにも何度か薬膳などを黒蓮以外の者に出しているが、いつだって相手の反応に期待と不安でいっぱいにいなるのだ。
 気に入ったのか、長庚は休む間も無く粥を口へと運んでいる。
「は~美味い。生き返る。」
「え、もしかしてお腹減りすぎて倒れてたんですか?」
「そんなわけねぇだろ。俺も一応神だぞ。」
「ごめんなさい。」
 こちらを睨んだ瞳は黄金色に光っている。
「ま、俺もかなり力が弱っているからな。この肌の紋様と、目くらいしか神の証拠になるものは無い上に治癒力もすっかり衰えちまった。倒れてたのは疲れたから寝てただけだ。ここ神気に満ちてるし。」
 疲れたからといって敷地の庭で寝るだろうかと思う雪月だったが、それよりも気になることがあった。
「神様は皆、肌の紋様があり瞳の色が黄金色なのですか?」
 雪月が今まで会ってきた妖怪たちは、肌の色は違えど紋様がある者は見たことがない。瞳の色も全員漆黒だ。
「そうだ。」
「では黒蓮様の瞳が黒いのはなぜなんでしょう…?」
 雪月は記憶の中の黒蓮を思い浮かべてみるが、瞳の色が黒以外になったところなど見たことがない。
「あの鬼神サマはずっと人形をとっているからな。本来の姿は見たことがないのか?」
「はい。」
 如意の力で獣へと姿を変えたところは何度も見たことがあるが、それ以外はいつもの人の姿だ。
「いつものお姿が本来の姿なのかと思っていました。違うんですね。」
「俺も長く生きてるが、本来の姿を見たのは一度だけだ。周りを怖がらせないようにっていう配慮なんだろうな。」