二人で朝餉の七草粥を食べた後、雪月はもう一度庭へ出てみた。枯れた原因を探そうと、先ほどの釁隙の端まで歩いて行く。
「え⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」
 そこには犬らしき獣が横たわっていた。白い毛並みは美しく、体には赤い紋様がある。そして其処彼処に怪我を負っていた。
(妖怪…、神様? いや、そんなことより早く手当てしないと!)
 雪月は急ぎつつも慎重に、その白い獣を抱き上げて屋敷へと戻った。縁側に置いてある座布団に静かに寝かせる。出血しているのであまり動かさない方が良いだろうと判断し、手当ての道具と薬を持って来ることにした。
 薬房に入り止血するための布や、薬を用意する。
(確か膿もあったから松脂(まつやに)、松脂…)
 松脂の軟膏は、膿の手当ての他に傷や肌の炎症に用い、痛み止めの効果もあるのだ。薬房での用が済むと、今度は傷を洗う為の水を汲むために桶を持って厨へと向かう。
 厨に入ると、黒蓮が湯を沸かしていた。
「あ、黒蓮様。」
「そんなに急いでどうかしたのか?」
 息を切らしながら水瓶の水を汲んでいる雪月を、黒蓮は不思議そうに見つめた。
「先程庭で、怪我をした白い犬が倒れていて…。今縁側に運んだのですが。」
「…犬?」
 黒蓮を連れて縁側に戻ると、先程の白い犬は居らず、代わりに見知らぬ男が座っていた。
「えっ⁉︎ あれ?」
「なんだ長庚(ゆうずつ)じゃないか。」
「よお、鬼神サマ。邪魔してるぜ。」
 透き通るような白髪と、金色の瞳を持った長庚という男はニヤリと笑いながらそう言った。身に纏っている朱色の着物は一見派手だが、肌の赤い紋様とよく似合っている。
「お知り合いですか?」
「ああ。長庚は幽世生まれの犬神だ。妖怪だったが、七百年程前に神になっている。」
 また途方もない年月を言われて雪月が固まっていると、長庚が口を開いた。
「へぇ、お前さんが雪月か。確かにそっくりだな。」
「長庚。また怪我したのか? あれほど他の者と喧嘩するなと言っているのに。」
 黒蓮が即座に話を変えたことに気づいたのは長庚だけだった。
「この傷は喧嘩のせいじゃない。」
「どうだか。」
「疑い深い神だな。まあその方が良いんだろうけど。」
(なんか、あまり仲良くないのかな。)
「あの、どちらにせよ傷の手当てを…。まだ血も止まっていませんし。」
 雪月は仲介に入るつもりで二人の話を遮ると、戸口の方から誰かの声が聞こえた。
「黒蓮様いらっしゃいますかー?」
 声の主は黒蓮に用事があるようだ。
「では長庚さんの手当ては私がしておきます。」
「……わかった。」
 黒蓮は若干不服そうにしながらも去っていった。
 雪月は長庚の傷口の汚れを落としていると、何かが手や足に絡みついているのを見つけた。