「わしが都に来てから晴れ続きなのを不審に思われたらしくての。勘の鋭いやつに気づかれてしまったんじゃ。」
(粗放な方なのかな…。)
 そんな適当で良いのかと思ったが、後先考えずに逃げてきた自分では何も言えないので、雪月は静かにしていることにした。
「それはお前の責任じゃないか…?」
「まあこの通り無事だからいいんじゃよ。がはは。」
 焔が哄笑(こうしょう)しているのを、黒蓮は呆れたように見ながら茶の間へと案内した。
「痛たた。」
「どこか痛むんですか?」
「腰と頭が少し痛くてのう。まぁ頭は昨夜に開かれてた宴に出ていたからなんじゃが…。二日酔いってやつじゃ。」
「宴、ですか?」
「そうじゃ。この辺りの妖怪たちは定期的に宴を開いているんじゃよ。久しぶりに会った輩も多くてのう。少し飲み過ぎてしまった。」
「いつもじゃないか。」
 黒蓮からの指摘に焔は「耳が遠くて聞こえんのう。」と誤魔化しながら笑っている。古くからの付き合いというだけあり、二人の間には独特の空気感が漂っていた。
「では二日酔いに効くものをご用意しますね。」
「おお、それは助かるのう。」
 雪月は適応症について考えながら茶の間を後にした。

「ところで黒蓮殿。雪月殿はあの山伏の血を持つ者じゃろう?」
 少し低くなった焔の声は、先程までの和やかな雰囲気を全く別のものに変えた。
「ああ。俺も最初はまさかと思ったが間違いないだろう。血の香りも同じだ。」
「本当に似ておるのう。五百年前と同じ顔を見ることになるとは思わなかった。」
「雪月は生贄になることから逃れるために逃げてきたんだ。そして倒れているところを俺が見つけた。この釁隙で。」
「入れたということじゃな?」
「そういうことだ。雪月は鏡を持っていた。五百年前、俺があいつに渡した物だ。ずっと受け渡ってきたらしい。今は付喪神が憑いているし、その影響もあるんだろう。」
「そうだとしたら、運命とはあるものなんじゃな…。」
「そうかもしれないな。」
「今回はどうするんじゃ。ずいぶん懐いているように見えたがのう。」
「…まだ決めていない。雪月の望む通りにしたいとは思っている。」
「あの娘とわしらの時間は違う。人は現世に生まれたが故にいずれ死を迎える宿命をもつが…。まぁお主が一番理解しているとは思うがの。」